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網膜色素変性の白内障手術

網膜色素変性の目は視野が高度に狭窄しても、中心窩の視細胞が障害される末期までは通常視力は良好です。
ただし後嚢下や前極白内障https://meisha.info/archives/983で瞳孔中央が混濁すると、見えにくくなり白内障手術が必要になります。

白内障手術の可否

[水晶体の濁りを除去すれば網膜に到達する光量が増加して視細胞死が加速する]などの考え方から、以前は網膜色素変性に対する白内障手術を勧めないとする眼科医も多くいました。
西田朋美 他: 網膜色素変性症の白内障手術に対する眼科医の意識. 臨床眼科 66:503-8.2012
しかし[白内障の濁りで網膜への光照射が減ると網膜変性の進行が遅れる]という仮説は未だ証明されてはいません。
(ただし白内障手術に際しての手術顕微鏡照明による術中の光障害については注意の必要があります。)
私自身は[狭い視野であっても黄斑部の機能が残る間は、白内障手術による視力改善は生活の質の改善に役立つ]との考え方から、下記の適応がクリアできれば積極的に白内障手術をすすめます

白内障手術適応の問題

黄斑部の詳細が不明な白内障の目を手術する際、中心窩視細胞の健全性の評価は重要です。
手術が成功しても中心窩視細胞が脱落していたのでは患者さんのメリットはないからです。
池田康博: 白内障手術前に網膜色素変性を見つけたら. あたらしい眼科 40:867-71.2023
中心窩の機能は形態的にはOCT https://meisha.info/archives/735眼底自発蛍光で、機能的には中心10度の視野検査で評価可能ですがhttps://meisha.info/archives/878、水晶体の混濁のために術前評価が困難な場合もあります。

症例:Aさん、61/F

Aさんは34歳で網膜色素変性と診断された後、何箇所かの眼科診療所を不定期で受診していました。
50歳時の視力は0.4/0.5でしたが、白内障が進行した59歳には視力は手動弁/0.08で、白内障手術を希望されました。
しかし紹介されたB総合病院では手術に伴うリスクを説明され、ミドリンM点眼による散瞳で少しみやすくなるとの理由で、手術は予定せず経過観察とされました。
その2年後、本ブログ筆者の網膜色素変性に関する論文などを読み、再度白内障手術について相談するためY大学病院眼科を受診されました。

Y大学病院眼科初診時

視力:0.02/0.06
両眼とも前極白内障(図左端)が強く眼底自発蛍光やOCT(図中央2列)での評価は困難でしたが、1か月前に他院で受けたゴールドマン視野検査(図右端)では左の中心視野は比較的よく、少なくとも左眼は手術で視力改善が見込めると判断しました。

そこでまず左眼、続いて右眼のPEA/IOLを施行したところ、術後の眼底自発蛍光(図中央)では両眼の中心窩は過蛍光を示し、視細胞障害が中心窩に及んでいるものの、まだかなり残存することを示しています。https://meisha.info/archives/744
OCT(図右)ではEZは不明瞭化していますが外顆粒層はある程度残っています。https://meisha.info/archives/735
視力は0.4/0.4に改善してAさんは手術の結果に大いに満足しました。