• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

MDスロープで評価する網膜色素変性

視野が進行性に障害される代表的な目の病気は緑内障と網膜色素変性です。
緑内障で網膜神経線維が脱落していく経過はハンフリー30-2視野(または24-2視野)のMDスロープで評価できます。
https://meisha.info/archives/874
網膜色素変性では視細胞が進行性に失われます。
https://meisha.info/archives/735
https://meisha.info/archives/726
それに伴う視野障害の進行の経過もMDスロープでフォローできます。
ただし多くの患者さんは10度以下の視野で受診するので、30-2ではなく10-2視野MDスロープが一般には適しています。
下図右の視野結果は左の自発蛍光写真の点線の範囲に相当します。

視野の島とMD値の意味

視野検査結果は、視野感度を高度に置き換えた視野の島の形の記録で、ゴールドマン視野はその等高線表示になります。
ハンフリー視野10-2のMD値は、半径10度の円柱で切り取った視野の島の部分での地盤沈下に相当するトータル偏差(紫矢印に相当)の重み付き平均です。
網膜色素変性の目の場合、これは失われた視細胞の数に相関します。

網膜色素変性患者さんの将来予測

網膜色素変性の治療として、遺伝子治療、iPS細胞による再生網膜移植治療、人工網膜などが臨床研究中ですが、2020年12月現在、一般の患者さんが受けることのできる効果的な治療はありません。
眼科医にできることは、目の前の患者さんが、[あと何年仕事ができるか?]、[何歳まではある程度見えているのか?]という将来予測の情報提供です。
右に示す10-2視野のMDスロープは、52歳の網膜色素変性患者さんの20年間の結果です。
数年の結果で将来の予測が可能となり、患者さんの生活設計に大いに役立ちます。
飯島裕幸: Humphrey視野計でみる網膜疾患. 日本眼科学会雑誌 120:190-208.2016

MD値と視力

多数例の解析から、MD値が-15dB以上の目では、矯正視力は0.5以上あり、デスクワークの仕事は継続可能です。
Abe K, Iijima H, Hirakawa H, et al.: Visual acuity and 10 degrees automated static perimetry in eyes with retinitis pigmentosa. Jpn J Ophthalmol 46:581-5.2002
患者さんによっては-25dB程度でも1.0に近い視力を有していて、上図の患者さんは両目とも-24dBで0.7の視力でした。
しかし-30dB以下になると中心視野の障害で矯正視力も不良となり、失明時期に近づくと考えられます。