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肥厚性硬膜炎 HP

視神経障害/眼球運動障害/頭痛

急激な片目の視力低下と視野障害を生じ、細隙灯顕微鏡や眼底検査で眼球自体に異常が見られなければ、眼科医はまず球後視神経炎を疑います。
さらに同じ目の眼球運動が障害されていれば、眼窩尖端症候群による脳神経2,3,4,6番の障害を疑います。
その際に強い頭痛を伴っていれば、原因として肥厚性硬膜炎HP: Hypertrophic pachymeningitisを考慮します。

症例

64歳女性、数カ月前から頭痛に悩まされていました。
10日前に左方視で水平性の複視を自覚し近くの眼科で左の外転神経麻痺と診断されて大学の脳外科を紹介されました。
3日前から左目の視野が真っ暗になり大学病院の眼科で検査を受けたところ、矯正視力は1.2/0.01、図左のように視野検査で左の中心絶対暗点、また左眼の軽度の外転障害を認めました。
頭痛も訴えていたので造影MRI検査を行ったところ前頭部の硬膜肥厚が見られ(図右)、その変化は前頭蓋底から左の上眼窩裂と視神経管に及んでいました。
頭痛、左の視神経と外転神経の障害はHPによると考えられました。
原因となる感染症や非感染性の炎症が見つからず、特発性の肥厚性硬膜炎と診断され、ステロイドパルス治療を開始したところ、翌日には頭痛は消失し視力も改善しました。

肥厚性硬膜炎HP

HPは脳や脊髄の硬膜が慢性炎症によって肥厚して、種々の神経症状を示す病気です。
視神経や眼運動神経を含む脳神経障害をきたしやすいことから、眼科を受診することもあります。
確定診断には硬膜生検が必要ですが、MRI画像と臨床所見でも診断されます。
ただし造影なしのMRI画像でHPを診断するのは困難で、HPに特有な頭痛を伴う場合は、最初から造影MRI検査を行うべきです。
HPには特発性続発性があり、続発性の原因としては感染性、自己免疫性、腫瘍などがあり、それらが否定された場合、特発性と診断してステロイド治療が行われます。