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眼類天疱瘡 OCP

角膜上皮幹細胞疲弊症の原因

角膜上皮幹細胞疲弊症 LSCD: limbal stem cell deficiencyは角膜上皮が結膜上皮に置き換わって透明性を失う重症の眼表面疾患です。
その原因としてStevens-Johnson症候群角膜熱傷/化学火傷と並んで眼類天疱瘡OCP: ocular cicatrical pemphigoidが重要です。
眼類天疱瘡とはどのような病気でしょうか?

天疱瘡

天疱瘡pemphigusは皮膚や粘膜の上皮内に水疱を生じる皮膚科の病気です。
皮膚の表皮細胞は細胞間接着装置であるデスモゾームによって互いに接着しています。
天疱瘡ではその構成蛋白であるデスモグレインDsg: desmograinに対して自己抗体が作られ、免疫反応によって細胞間接着機構が破綻する結果、水疱が形成されます。

類天疱瘡

一方、[天疱瘡もどき]を意味する天疱瘡pemphigoidでは、上皮と基底膜の間の接着装置であるヘミデスモゾームを構成するBP180, BP230, ラミニン332などに対する自己抗体が産生される結果、基底膜部に表皮と真皮を隔てる水疱が形成されます。
類天疱瘡は主に皮膚にみられる水疱性類天疱瘡BP: bullous pemphigoidと粘膜にみられる粘膜類天疱瘡MMP: mucous membrane pemphigoidに大別されます。
眼類天疱瘡 OCP: ocular cicatrical pemphigoid は粘膜である結膜に生じる粘膜類天疱瘡の一病型です。

なお以上の病気はすべて自己免疫疾患の範疇に属しますが、眼類天疱瘡は、自己免疫機序によらず、長期の点眼の慢性毒性によってOCP類似の像を示す病態です。

眼類天疱瘡

OCPでは皮膚の類天疱瘡にみられるような大きな水疱形成はみられませんが、代わりに眼表面の慢性炎症結膜下の瘢痕形成による病態が進行します。
具体的には、睫毛乱生、結膜嚢短縮、瞼球癒着、結膜上皮の角膜侵入などがみられます。

眼類天疱瘡の病態

粘膜である結膜と皮膚の境界である粘膜皮膚移行部 MCJ: muco-cutaneous junctionはマイボーム腺開口部や睫毛根の眼球側に位置します。
OCPの慢性炎症で眼瞼結膜が瘢痕収縮すると、MCJが結膜円蓋部側に移動して睫毛根部が内反するようになり、睫毛乱生を生じます。

また本来しなやかでゆとりのある眼球結膜が収縮すると涙液を貯留する結膜嚢が浅くなります。
瞼球癒着は短縮した眼球結膜から眼瞼結膜に連続するヒダとして観察されます。
さらに慢性の炎症によって輪部のpalisades of Vogt(POV)に存在する角膜上皮幹細胞が失われると、血管を含む混濁した結膜上皮が角膜上に侵入します。
重症のドライアイ結膜杯細胞の障害消失涙腺の導管の閉塞などによって生じます。
鄭暁東: 眼類天疱瘡はどのような状況で悪化しますか、またどのように対処したらよいのでしょうか. あたらしい眼科 36:41-7.2019