アトロピンはM(ムスカリン)受容体に結合しアセチルコリンAChの信号をブロックする(抗コリン作用)ことで副交感神経遮断薬として働きます。
眼科で使用する1%点眼液は縮瞳に関わる虹彩の瞳孔括約筋と調節に関わる毛様体筋を麻痺させて強力な散瞳作用と調節麻痺作用を発揮します。
後述する長期持続効果のため、以下の限られた検査や治療用途でのみ使用されます。
1. (検査目的)調節性内斜視、不同視弱視https://meisha.info/archives/2257、屈折異常弱視などが疑われる乳幼児の調節麻痺下屈折検査
2. (治療目的)虹彩毛様体炎での虹彩後癒着防止のための散瞳維持治療
3. (治療目的)弱視治療としてのアトロピンペナリゼーション
注:最近、学童の近視予防治療に用いられるのは0.05%アトロピン点眼液で、国内未承認です。
1%アトロピン点眼液使用に際して注意するのは以下の2点です。
A. 乳幼児での発熱https://meisha.info/archives/4408
B. 長期間持続する散瞳と調節麻痺
散瞳によるまぶしさや調節麻痺によるかすみは通常点眼後1-2週間持続して社会生活上の支障となるため、成人の患者さんに対してアトロピン点眼の処方をためらう眼科医は少なくないようです。https://meisha.info/archives/4326
しかし虹彩毛様体炎では場合により1%アトロピン点眼を使用すべきことはガイドラインにも記載されています。
大野重昭他: ぶどう膜炎診療ガイドライン. 日本眼科学会雑誌 123:635-96.2019 p645
Nさんは1月初めからの右の虹彩毛様体炎に対してリンデロンとミドリンP点眼にて加療されていました。
3月に角膜に樹枝状病変を生じたためゾビラックス眼軟膏を開始してリンデロン点眼を中止したところ、角膜実質混濁と前房内炎症の悪化がみられ4月に大学を紹介されました。
初診時の右眼視力は指数弁で眼圧は28mmHg、角膜は浮腫状で実質混濁もみられましたが、上皮の樹枝状病変は消失し、虹彩後癒着のため右眼瞳孔は不整形で散瞳しません(図左)。
前年12月に右頭部皮膚の帯状疱疹に対して加療されたとの病歴を聴取して、VZV前部ぶどう膜炎https://meisha.info/archives/4749と診断し、右眼に対してリンデロン点眼6X、チモプトール点眼2Xに加えて、瞳孔管理目的でアトロピン点眼2Xを処方しました。
1か月後、視力は0.2に改善して、虹彩後癒着をわずかに残すものの、良好な散瞳が得られています(図右)。
虹彩毛様体炎に対しては1%点眼液だけでなく1%アトロピン眼軟膏を使用することもあります。
岩田大樹: 非感染性ぶどう膜炎に対する治療の現状. 眼科 66:323-9.2024