[4歳の娘が39度の発熱したが、眼科で処方された点眼薬が原因だろうか?]
と内科医をしている息子から電話で質問がありました。
[不同視弱視の疑い]と近くの眼科で診断されて、アトロピン点眼液を処方されたとのこと。ttps://meisha.info/archives/2257
不同視弱視では遠視の強い側の目が弱視になるため、その正確な屈折度(この場合は遠視の度数)を調べるために、調節麻痺薬であるアトロピンを通常1日2回、7日間点眼した後、他覚的屈折検査を行います。
若山曉美: 調節麻痺薬使用に関する再考 あたらしい眼科 36:979-82.2019
その際、点眼薬の副作用としての乳幼児の発熱は有名で、点眼を中止すれば解熱することを伝えました。
しかしアトロピン点眼でどうして発熱するのでしょうか?
点眼薬は涙に溶けて角膜や結膜に作用しますが、残りは涙点から涙嚢、鼻涙管に排出されます。https://meisha.info/archives/2605
その際、鼻涙管の粘膜から吸収されたアトロピンが全身性に作用して、発汗が抑制されるため発熱するとされています。(発汗減少で体温が上昇するのは脱水で発症する熱中症と同じメカニズムです。)
予防法は点眼されたアトロピンを含む涙が鼻涙管に流れていかないよう、点眼直後に涙嚢部の皮膚(鼻根部のわき)を図のように指で圧迫することです。(涙嚢が圧排されて涙が鼻涙管に流れ込まなくなる)
しかし交感神経が緊張するショック時に冷や汗がでるように、発汗は交感神経支配です。
副交感神経の抑制薬であるアトロピンでどうして発汗が抑制されるのでしょうか?
通常、副交感神経の節後線維末端からはアセチルコリンAchが分泌されて心筋や平滑筋、分泌腺のムスカリン受容体(M受容体)に結合して効果を発揮し、M受容体に競合的に結合するアトロピンはその作用をブロックします。
一方交感神経の節後線維末端からはノルアドレナリンNorが分泌されて効果器のα、β受容体に結合します。
ただし全身の皮膚に分布する汗腺は例外で、交感神経支配でありながら汗を分泌する腺細胞表面にあるのはM受容体で、節後線維末端からもNorではなくAchが分泌されて発汗の指令を受け取ります。
ギャノング生理学26版: 301-307丸善出版. 2022
そのため、点眼で吸収されたアトロピンが全身の汗腺の腺細胞でM受容体をブロックする結果、発汗が抑制されて、体温のコントロールが未熟な乳幼児では発熱するわけです。