片眼性の充血、眼痛、視力低下で発症する急性前部ぶどう膜炎 AAU: acute anterior uveitisでは、血漿タンパクが前房中に漏れ出し(前房内フレア)、その結果フィブリンが析出して虹彩後面と水晶体前面が癒着する虹彩後癒着を生じます。
武田彩佳, 堀純子: 急性前部ぶどう膜炎、眼科 62:1140-3.2020
虹彩後癒着が瞳孔縁全周に広がると散瞳薬を点眼しても瞳孔が広がらず、眼底観察が困難になります。
また後房から前房へ抜ける房水の流れが阻害される瞳孔ブロックhttps://meisha.info/archives/837によって、急性緑内障発作を生じるリスクがあります。
そのため前部ぶどう膜炎の治療の主体は消炎と瞳孔管理で、ベータメサゾン(リンデロン)やデキサメタゾン(デカドロン)などの強力なステロイド点眼とトロピカミド(ミドリン)などの散瞳薬で治療します。
しかしそのよう治療でも瞳孔縁での虹彩後癒着がはずれず大学病院に紹介されてくるケースがあります。
その際の決め手はステロイド薬の結膜下注射 SCI: subconjunctival injection https://meisha.info/archives/119とアトロピン点眼です。
77歳女性のAさんは3日前からの左眼の疼痛、充血、視力低下で近医を受診し、リンデロン点眼とミドリンP点眼を指示されて痛みは軽快したものの、虹彩後癒着がはずれないとして紹介されました。
矯正視力は0.3、眼圧は16mmHgでした。
瞳孔縁の多数箇所で虹彩が水晶体前面に癒着する虹彩後癒着のために散瞳点眼薬に反応せず眼底観察は困難でした(図左)。
そこで左眼に対してデカドロンの結膜下注射0.5mlを行い、リンデロン点眼6回とアトロピン点眼1回を指示しました。
1週間後には虹彩後癒着ははずれて散瞳するようになり、水晶体前面には癒着の名残の虹彩色素上皮の付着が観察されます(図右)。
矯正視力も3か月後には1.0に回復しましたが、血液検査では明らかなぶどう膜炎の原因は不明でした。
1%アトロピンを点眼すると2週間持続する散瞳によるまぶしさの苦情を患者さんが訴えるため、使用をためらう眼科医は多いようです。
しかし不可逆性の縮瞳状態が器質化して眼底観察が困難になり、膨隆虹彩から続発緑内障に至るリスクを考えるとそんなことは言っていられません。
1-2週間の一時的なまぶしさは理解してもらい、必要時には散瞳効果が強力なアトロピン点眼をためらわない決断が必要です。