最近経験した症例の眼窩腫瘤を生検したところ、眼窩アミロイドーシスと診断されました。
アミロイドは眼球内では角膜や硝子体に沈着することが知られていますが、眼球外の結膜、涙腺、外眼筋、眼窩にみられることは比較的まれです。
Leibovitch I et al.: Periocular and orbital amyloidosis: clinical characteristics, management, and outcome. Ophthalmology 113:1657-64.2006
新井玲: アミロイドーシスと眼瞼. 眼科 59:1387-90.2017
そこで眼科関連のアミロイドについて調べてみました。
でんぷんを分解する酵素がアミラーゼと呼ばれるように、アミロイドは19世紀に発見された当初は多糖と思われていましたが、その後の研究で線維構造を示す不溶性蛋白であることがわかりました。
蛋白の二次構造のひとつであるβシート構造が積層したクロスβ構造のため、アミロイドはコンゴーレッドで赤く染色され、偏光顕微鏡で観察すると複屈折を示す青リンゴ色に見えます。
アミロイドの蛋白構造は特徴的ですが、生化学的な組成はさまざまで、疾患によって異なるアミロイド蛋白(AL、AA、ATTRなど)から生成されます。
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/Amyloidosis/CPG2010_amyloidosis.pdf
アミロイドが細胞外に沈着して臓器障害を起こすとアミロイドーシスと呼ばれます。
DNAから翻訳されたばかりのアミノ酸の一本鎖からなる一次構造の蛋白は、折りたたまれて(フォールド)立体的な三次構造をとり、生体分子としての機能を発揮します。
そのような蛋白のもつ本来の立体構造(コンフォメーション)とは異なった構造をとってアミロイドは凝集するため、アミロイドーシスはコンフォメーション病のカテゴリーに含まれます。
https://www.nanbyou.or.jp/entry/207
https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2015.870292/data/
免疫グロブリンL鎖から生じる原発性ALアミロイドーシスや血清アミロイドAから生じる反応性AAアミロイドーシスあるいはトランスサイレチン(TTR)から生じる家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は全身の臓器に沈着がみられるので、全身性アミロイドーシスに分類されます。
一方、アミロイドβが脳に沈着するアルツハイマー病は限局性アミロイドーシスに分類されます。
眼科領域での限局性アミロイドーシスとしては角膜ジストロフィに分類される格子状Ⅰ型角膜ジストロフィと膠様滴状角膜ジストロフィがあります。
いずれも遺伝病ですが、角膜実質にケラトエピセリンあるいは涙液中のラクトフェリン由来のアミロイドが沈着します。
また睫毛乱生によって角膜表面にアミロイドが沈着する下図の続発性角膜アミロイドーシスもまれではありません。
佐々木香る: 角膜 セカンダリーアミロイドーシス 続発性角膜アミロイドーシス. 日本の眼科 91:842-8.2020