2015年のノーベル生理学・医学賞は「線虫nematode寄生による感染症の新たな治療法の研究」で、大村智先生が受賞しました。
大村先生が発見した放線菌(Streptomyces avermectinius)が産生するAvermectin(エバーメクチン)から作られたIvermectin(イベルメクチン)が西アフリカでのオンコセルカ症撲滅のために利用されて、失明対策に多大の貢献をしたことが受賞理由のひとつです。
Avermectin とIvermectinの日本での呼称は複数あります。
Avermectin:アベルメクチン、エバーメクチン
Ivermectin:イベルメクチン、アイバメクチン
http://www.antibiotics.or.jp/MLs/12th/12th_MLs_106.pdf
大村智: エバーメクチン発見とその後の展開 Jpn J antibiotics 59:106-13.2006
オンコセルカ症は日本ではみられませんが、西アフリカ、中南米などでの風土病で、20世紀末、世界で1800万人が罹患し、200万人が視覚障害を生じ、40万人が失明していました。
Onchosercariasis. In: Albert DM, Jakobiec FA, eds. Principles and practice of ophthalmology 2nd edition. Philadelphia: WB Saunders.147-8; 4922-4. 2000
眼科医として知っておくべき目の疾患ということで調べてみました。
オンコセルカ(Onchocerca volvulus)は糸状虫filariaの仲間で、虫卵で感染する回虫とは異なり、終宿主であるヒトの皮下腫瘤内に生息する雌の成虫が、卵ではなく幼虫であるミクロフィラリアを産みます(③)。
血中ではなく皮下に存在するミクロフィラリアは、中間宿主であるブユblackflyによる吸血で取り込まれ(⑤)、感染幼虫に発育します。
再び吸血によってヒト体内に侵入した感染幼虫(①)のみが成虫になることができます(②)。
オンコセルカの成虫は人の体内で約14年間生き続け、その間に何百万という大量のミクロフィラリアを産み続けます。
ミクロフィラリアは人体内では成虫になれませんが、死滅する際に激しい炎症を起こし、皮膚に猛烈な痒みを生じます。
また角膜、前房、硝子体、網膜、脈絡膜、視神経に侵入したミクロフィラリア(④)の死滅時の炎症によって、硬化性角膜炎など失明に至るさまざまな眼病変を生じます。
オンコセルカの唯一の中間宿主であるブユは、汚染されていない流水でしか生育できません。
アフリカと中南米の河川流域の流行地で多くの失明した感染者がみられるため、河川盲目症river blindnessと呼ばれます。