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クリスタリン網膜症とiPS細胞移植

クリスタリン網膜症(Bietti’s crystalline dystrophy: BCD)は遺伝性の網膜ジストロフィで、眼底の後極に微細な黄白色の閃輝性沈着が見られることが特徴です。

多くは30歳以後に眼科を受診して発見されます。
フルオレセイン蛍光眼底写真(FA)や眼底自発蛍光検査では、網膜色素上皮(RPE)と脈絡膜の斑状の委縮性変化が見られ、比較的急速に進行します。(図の右は上に示した患者さん(女性)の5年後(36歳時)のFAです。)
RPEの変性の進行に伴い中心視野が障害され視力も低下します。

クリスタリン網膜症のメカニズム

クリスタリン網膜症の遺伝形式は常染色体劣性で、原因遺伝子は脂肪代謝に関連するCYP4V2です。
患者さんから作成したiPS細胞を網膜色素上皮細胞(RPE細胞)に分化させた試験管内での実験では、RPE細胞の中に遊離コレステロールが過剰に蓄積する結果、オートファジー機構が障害されて細胞死に至ることがわかりました。
池田華子, 畑匡侑: クリスタリン網膜症の病態解明および治療法開発. 医学のあゆみ 268:868-70.2019
Hata M, Ikeda HO, Iwai S, et al.: Reduction of lipid accumulation rescues Bietti’s crystalline dystrophy phenotypes. Proc Natl Acad Sci U S A 115:3936-41.2018

このことからクリスタリン網膜症ではまずRPE細胞が変性脱落し、その結果二次的に視細胞の消失減少と脈絡膜の委縮が進行すると考えられます。

網膜色素上皮(RPE)不全症に対する同種iPS細胞由来RPE細胞懸濁液移植に関する臨床研究

自己のiPS細胞から作った再生網膜色素上皮シートを世界で初めて加齢黄斑変性患者さんの目に移植した神戸アイセンター病院では、今度は他人の同種iPS細胞由来のRPE細胞を懸濁液の形で網膜下に移植する臨床研究を令和3年1月からスタートします。
対象は彼らがRPE不全症と呼ぶ、RPE細胞がまず変性脱落するグループの病気です。
責任遺伝子がRPEで発現するタイプの網膜色素変性や黄斑ジストロフィなどが含まれますが、クリスタリン網膜症も含まれるとのことです。
黄斑部の視細胞がまだ残っている状態のクリスタリン網膜症の目に、正常な遺伝子をもつRPE細胞を移植すれば、残っている視細胞を守って進行を停止させる有望な治療法になることが期待されます。
https://www.amed.go.jp/news/release_20210120-01.html