• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

単焦点 VS 累進メガネ

遠視のヒトの多くは若い頃、裸眼で遠くも近くもはっきり見えたので、メガネの使用経験がありません。
学童期からメガネに親しんできた近視のヒトとは大きく異なる点です。
そのため手元の文字がぼやける老視年齢になると、まず単焦点の近用メガネを読書の時だけ掛けるようになります。
さらに老視が進むと、遠くの看板の文字も裸眼ではピントが合わなくなります。
そのため遠用の単焦点メガネを運転やTV視聴の時に使用するようになりますが、それでも日常生活は裸眼のまま過ごすことが多いようです。

遠視用の遠近両用メガネ

そのような必要時のみメガネ装用の遠視の高齢者に対して、眼鏡店の店員は遠近両用のメガネを勧めます。
遠近両用メガネは現在は通常、境い目のない累進屈折力レンズのメガネのことです。
しかし若い頃からメガネを常用していた近視のヒトとは異なり、四六時中メガネをかけていることに慣れていない遠視のヒトは、常にメガネを掛けていることを煩わしく感じるため、必要時だけ遠近両用メガネを使用することが多いようです。
その結果、せっかく作った遠近両用メガネをタンスの中にしまったままにしたり、読書の際にだけ使用する遠視の高齢患者さんを大勢みてきました。https://meisha.info/archives/374

指揮台譜面用近用メガネ

しかし、最近珍しく遠近両用の累進レンズメガネを常用している遠視の高齢の患者さんを診察する機会がありました。
緑内障のフォローで定期的に診察している80歳くらいの男性患者さんです。
遠用+2.0D程度で近用3.0D追加の累進レンズのメガネを常用していました。
しかし指揮者としても活動しているこの患者さんは、60センチメートルくらい離れた指揮台の譜面が読みにくくて困ると訴えます。
そこでその距離に合わせた中間距離用の単焦点メガネを処方して、指揮をする時だけ掛けかえるよう勧めました。

3カ月後の診察時

ところが次の診察時にはまだ処方されたメガネを作っていませんでした。
私の処方箋を持っていった眼鏡店の店員から「この処方箋のメガネでは遠くが見えないので遠く用の度数も記入した処方箋を再発行してもらってください」と言われたとのこと。
処方箋には備考に「使用目的:近用単焦点メガネ」と記載してあったのですが、累進メガネをかけていたので、店員が勘違いをしたのでしょう。
「これは指揮をする時専用のメガネだと言えばよかったのに」との私の意見に対して
「理屈はよくわからないので、メガネ屋の店員に言い返す勇気がなかった」とその高齢の患者さんは申し訳なさそうに説明されました。
そこで同じ眼鏡処方箋を再発行し、備考欄に「指揮者です。指揮台の譜面を見る時だけ掛ける近用単焦点メガネで、それ以外は現有の累進メガネを掛けます」と但し書きしました。

メガネを処方する眼科医も処方箋を受け取る眼鏡士も、ともに患者さんの生活スタイルをよく聴取して、作成するメガネをどのような場面でどのように使用するのか丁寧に説明することが重要だと感じました。