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網膜芽細胞腫(Rbl)

RB遺伝子

白色瞳孔を示す赤ちゃんの目の癌、網膜芽細胞腫(Rbl: Retinoblastoma)https://meisha.info/archives/1265の原因は、13番染色体長腕上にあるRB遺伝子という癌抑制遺伝子の異常です。
その産物であるRB蛋白は、転写因子 E2Fに結合して、細胞周期のG1からS期への進行を制御します。
発がんにつながるDNA複製のミスが生じても、S期への進行を停止させて損傷DNAの修復のための時間稼ぎをすることで癌細胞の発生を防止します。

遺伝性のRbl

Rblの1/3は遺伝性で、2本ある13番染色体のうちの片方のRB遺伝子が欠けています。
それでも残る1本の染色体のRB遺伝子がDNA複製エラーを修復すれば癌細胞は生じません。
しかし網膜の視細胞は細胞分裂によって片目で1億個以上に増えます。
繰り返されるDNA複製において、残る1本の染色体のRB遺伝子が異常になって癌化することは必然で、その1回の異常で生じた1個の癌細胞が増殖すれば網膜芽細胞腫を発症することになります。

2ヒット理論

このように本来2個ある癌抑制遺伝子のRB遺伝子が、2段階で失われて発がんするメカニズムは、2ヒット理論(two-hit theory)として昔から知られていました。
1個目のRB遺伝子の喪失を1stヒット、2個目の喪失は2ndヒットと呼ばれます。

遺伝性のRblでは1stヒットが受精卵の段階で生じています。
その後の細胞分裂で1億個もの視細胞を生じる間に2ndヒットが起こらないほうが不思議なくらいで、通常RB遺伝子を2個とも欠如する細胞は片目で数個以上発生します。
そのそれぞれが癌細胞として増殖するので、遺伝性Rblでは両眼性で多発性の腫瘍が見られることがよくあります(右図)。

非遺伝性のRbl

一方非遺伝性のRblでは最初の視細胞が分裂して1億個になる細胞系譜の一連の流れの中で2回のヒットを生じる必要があります。
227 > 1億
なのでRB遺伝子を失うという突然変異のヒットが27回の分裂中2回必要になります。
これはかなり稀な確率ですが、数千人に一人くらいの割合であれば生じると考えられます。