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傾斜乳頭症候群TDSの漿液性網膜剥離SRD

傾斜乳頭症候群(TDS: Tilted disc syndrome)は視神経乳頭が図左のように下方あるいは下鼻側を向いて傾く先天異常です。
同時に図右(図左の点線矢印でのOCT断面)のように下方強膜が後方にカーブする後部ぶどう腫を形成し、その境界線が視神経乳頭から水平あるいは下耳側に向かいます。

TDSには脈絡膜新生血管(CNV)ポリープ状脈絡膜血管症(PCV)など、黄斑部の網膜下の異常血管が見られることがあります。
しかしそのような異常血管なしで漿液性網膜剥離(SRD)を生じることもあります。
篠原宏成: 傾斜乳頭症候群. In: 大野京子ほか編: 眼科臨床エキスパート:画像診断から考える病的近視診療. 医学書院, 210-214, 2017.
Nakanishi H et al.: Macular complications on the border of an inferior staphyloma associated with tilted disc syndrome. Retina 28: 1493-1501, 2008.

症例:62歳女性

30代から右目の中心性漿液性脈絡網膜症CSCとして何回か眼科にかかっていました。
乱視はありますが等価球面度数は0Dで、右眼の矯正視力は0.6です。
上の眼底写真はこの症例で、中心窩には脱色素性変化がみられ、OCTでは浅い漿液性網膜剥離SRDになっています。

フルオレセイン/ICG蛍光眼底造影検査(FA/IA)を行うとFAでは中心窩の脱色素部位に顆粒状のwindow defectの過蛍光がみられ、5分後にはどこからともなく滲むような蛍光漏出像がみられます。
IAでは低蛍光を示し脈絡膜毛細血管板の萎縮によるfilling defectと考えられます。

レーザー光凝固は凝固部位を特定できません。
また光線力学的療法PDTは脈絡膜が萎縮傾向のため、ためらわれます。
そこで特別な治療は行わず経過をみた結果、2年後にはSRDは吸収して0.7の視力に改善しました。

SRDを示すTDSへの治療

この症例のようなCNVやPCVを伴わないTDSのSRDに対する治療方針は確立していません。
主治医の判断で経過観察、あるいは抗VEGF薬硝子体注射やPDTで1年以上の経過をみた48眼のTDSの経過が最近、本邦多施設の臨床研究として報告されました。
その結果ではSRDが消失すると矯正視力は改善するものの、視力予後に治療手段の有無は影響しないとされています。
Kubota F et al.: Tilted Disc Syndrome Associated with Serous Retinal Detachment: Long-term Prognosis. A Retrospective Multicenter Survey. Am J Ophthalmol 207: 313-318, 2019.