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視神経炎と虚血性視神経症

片目が急に見えなくなり、眼底検査で視神経乳頭の腫脹がみられるケースの多くは、視神経乳頭炎前部虚血性視神経症です。
両者を鑑別するポイントは発症経過眼球運動痛です。

発症経過の違い

両者とも患者さんの訴えは「急に見えなくなった」ですが、「何時に見えなくなりましたか?」と質問してみましょう。
虚血性視神経症ではたとえば「今朝起床して7時のニュースを見ていたとき、突然に見えなくなった」などと説明してくれます。
これは突発性発症で、視神経を栄養する血管の閉塞によって生じる循環障害のためです。
これに対して、視神経炎では「何時とは言えないが、昨夜から右目がおかしいと思っていた。今朝になって随分見えなくなり、お昼ごろには反対目を隠すと何も見えなくなった」などと話してくれます。
視神経炎の多くは免疫異常によって神経線維周囲のグリア細胞に生じる急性炎症です。
毛塚剛司: 視神経炎における抗MOG抗体の取り扱い. 臨床眼科 72: 328-331, 2018.

急性発症VS突発性発症

急性炎症では進行速度は速いものの突然ではなく、数時間あるいは数日かけて急坂を転げ落ちるイメージの悪化で急性発症と呼ばれます。
これに対して突発性発症は崖から落ちるイメージです。
眼科の視神経の病気に限らず、臨床医学一般に通用しますが、急性炎症の急性発症と循環障害の突発性発症を問診で聴き分けることは診断学で重要です。

前部VS後部、乳頭VS球後

視神経は網膜神経節細胞の軸索である神経線維の集合です。
眼球内の視神経乳頭から眼窩内、視神経管内、頭蓋内を走行して視交叉まで35-50mmの長さがあります。
虚血性視神経症、視神経炎いずれも病変がその長い経路のどこで生じるかによって眼底所見が異なります。
前方(視神経乳頭から眼窩内前部)では前部虚血性視神経症(AION)視神経乳頭炎と呼ばれ、眼底検査で視神経乳頭浮腫がみられます。
後方(眼窩後部から視神経管、頭蓋内)では後部虚血性視神経症(PION)球後視神経炎と呼ばれ、眼底には異常はみられません。ただし発症後数カ月~数年経過すると視神経委縮で乳頭蒼白になります。
なおAIONはここではanterior ischemic optic neuropathyの略ですが、後述のarteritic ischemic optic neuropathy(動脈炎性虚血性視神経症)の略で使用されることもあるので注意が必要です。

前部後部
虚血性視神経症前部虚血性視神経症(AION)後部虚血性視神経症(PION)
視神経炎視神経乳頭炎球後視神経炎

眼球運動痛

虚血性視神経症と視神経炎の鑑別で重要なもうひとつのポイントは眼球運動痛です。
視神経を包む硬膜は眼窩尖端部で折れ返って眼窩骨膜になります。
眼球運動にかかわる6本の外眼筋の一端は眼球強膜に付着しますが、他端は下斜筋を除くと皆、眼窩尖端部の視神経硬膜に総腱輪として付着します。
そのため視神経炎では眼球運動の力が視神経硬膜に及んで炎症性サイトカインが放出され痛みを感じます。
炎症ではない虚血性視神経症では原則無痛です。
ただし、比較的まれな動脈炎性虚血性視神経症arteritic ischemic optic neuropathyでは頭痛や側頭部の圧痛はあります。