高齢者が見えにくさを訴える主要な原因は白内障と老視です。
個別の患者さんでそのどちらが主な原因かを判断するためには、[TVと新聞のどちらが見えにくいか?]と質問することを[白内障 VS 老視]https://meisha.info/archives/48の記事で解説しました。
主原因が老視であることは老眼鏡(近用メガネ)の装用で確認できます。
近視ではない正視や軽度の遠視の高齢者の多くは、それまでの人生でメガネをかけた経験がありません。
そのため眼科で初めて老眼鏡を掛けてみて文字がはっきり見えることに感激する高齢者は少なくありません。
100円ショップには老眼鏡コーナーがあって通常+1.0Dから+4.0Dまでの出来合いの老眼鏡が0.5Dきざみで並んでいます。
どの度数が個々の患者さんにとって最適かは患者さんの年齢と屈折度数に依存します。
そこで筆者は予算千円程度で図のような度数の異なる老眼鏡のセットを準備しています。
その中から適切な度数の老眼鏡を選んで、患者さん自身のスマートフォン画面を見てもらい、見やすさを実感してもらうと、患者さんにとって老視の理解が容易になります。
以下は48歳男性の例です。
RV = 0.8 (1.0 X +0.5D)
LV = 0.7 (1.0 X +0.75 cyl -0.5D Ax180)
両目のぼやけを訴えて、白内障ではないかと心配して眼科を受診しました。
まず診察室の壁の時計を見てもらったところ時計の針も数字もわかりました。
次に患者さん用の病気のパンフレットの文字を読んでもらうと読みにくいと言います。
そこで老眼鏡セットの中から+1.5Dのメガネを取り出してかけてもらったところ、よく見えると満足しました。
その後、散瞳して皮質白内障はあるものの軽度で、眼底には異常のないことを確認しました。
そこであらためて患者さんの見えにくさの主な原因は、軽度の白内障ではなく初期の老視の症状であることを説明しました。
なおこの患者さんのように左右同程度の屈折で乱視も軽度であれば、近用眼鏡を処方するのではなく、廉価な出来合いの老眼鏡を選んでもらうことで十分に満足されます。