• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

水晶体(亜)脱臼

水晶体は毛様体につながるチン小帯で支持されることで、虹彩と硝子体の間の瞳孔面に固定されています。
先天的脆弱性(マルファン症候群、ホモシスチン尿症など)あるいは後天的要因(加齢、偽落屑症候群、網膜色素変性、ぶどう膜炎、外傷など)によってチン小帯が断裂すると、水晶体(亜)脱臼を生じます。
脱臼した水晶体の位置によって病態は異なり、対処法とその緊急度も異なります。

前房内脱臼

前房内脱臼では脱臼した水晶体後面と瞳孔縁の虹彩前面が接触することによる瞳孔ブロックを生じ、急激で高度の眼圧上昇をきたします。
そのため緊急手術がで必要です。

水晶体亜脱臼

虹彩後面位置での亜脱臼では単眼性複視による見えにくさがあるので、緊急ではないものの早めの手術を検討します。

水晶体の硝子体内完全脱臼

チン小帯が全周で切れて水晶体嚢に包まれた状態で硝子体中に脱臼した水晶体は眼底検査で網膜上に観察されます。

無水晶体眼の状態なので強度の遠視となりますが、通常+10D以上の適当な凸レンズを眼前にかざせば良好な視力が確認できます。

手術 VS 経過観察

硝子体内脱臼への対処法は[一般的には硝子体手術が必要]とされています。
國重智之, 小早川信一郎: 水晶体脱臼/IOL脱臼 【主訴と所見からみた眼科 common disease】眼科 60: 1244-1246, 2018.
ここで[一般的には]と断っているのは、他眼の視力が良好で、患者さんが希望しなければ手術を行わず経過観察もありうるということです。
他の綜説でも[水晶体が亜脱臼・完全脱臼していても、炎症や眼圧上昇などがなければ緊急手術を要さない]と記載されています。
西村栄一: チン小帯断裂,水晶体偏位・脱臼,外傷性白内障 【眼科救急疾患2020】眼科 62: 1117-1124, 2020.
水晶体嚢が無傷の状態ならば、水晶体蛋白による免疫反応である 水晶体起因性ぶどう膜炎 を生じる心配は通常ありません。
また無水晶体眼の前房中に硝子体が脱出してくることがなければ眼圧上昇の心配も通常ありません。

したがってたとえば、日常活動が制限され、全身的にも手術自体のリスクが問題になり、他眼がよく見えている超高齢者であれば、手術は予定せずに経過観察という選択がベストということもありえます。