眼科医が使用する細隙灯顕微鏡の台の横には端が橙色の小さな短冊が用意されています。
これはフルオレセインナトリウム(フルオ)という蛍光色素を染み込ませたろ紙です。
眼科医はこのろ紙に点眼液を1滴垂らして湿らせた後、患者さんの結膜に触れて涙を染色します。
暗室で患者さんの目を青色光で照らすと、涙が黄緑色の蛍光を発して鮮やかに観察できます。
図では角膜の表面の涙の薄膜が黄緑色の蛍光でうっすら染まっています。
下まぶたの縁に見える弧状の黄緑色は角膜とまぶたの間に溜まった涙で、涙液メニスカスと呼ばれます。
眼科医は涙液メニスカスの高さ(正常で0.2ミリメートル)を測って、涙目、渇き目を判断します。
金谷芳明ほか: フルオレセイン染色法の違いによる涙液メニスカス高への影響. あたらしい眼科 30: 1750-1753, 2013.
涙が可視化できるのは蛍光色素であるフルオが波長の短い青色の光を吸収して、それよりも波長の長い黄緑色の光を放出するためです。
実際に図のごとく暗室で青色光を当てると、フルオが染み込んだ脱脂綿は鮮やかな黄緑色を発して、フルオを含んでいない部分から際立って見えます。
フルオと蛍光の詳しい説明は飯島裕幸著:[これで納得 目の検査]を参照ください。
https://www.gentosha-book.com/products/9784344928879/
フルオは角膜の傷に結合するので、傷の性状は範囲の確認に利用されます。
図は角膜上皮全層が剥がれる角膜上皮欠損で、角膜中央が不規則な円形に強く染まっています。
そのほか点状表層角膜症(SPK)や単純ヘルペスウィルスの感染の樹枝状角膜炎の診断にも使われます。
注射薬としてフロを静脈注射すると、10数秒後に眼底の網膜血管に到達します。
眼底カメラの照明光を青色光にして、黄緑色光を選択的に通過させるフィルターを使用すると、網膜の血管像が毛細血管のレベルまで造影できます。
図の糖尿病網膜症では毛細血管のコブ(毛細血管瘤)や毛細血管の脱落(無灌流野)、それにフルオがにじんで漏れ出す網膜新生血管の様子がわかります。