レーザー(LASER)はLight Amplification by Stimulated Emission of Radiationの頭文字から作られた言葉で、そのような光を発生させる装置(レーザー発振器)、あるいはその光自体(レーザー光)を指します。
レーザー光には単色性や干渉性などのユニークな光学特性があり、医学や工学のさまざまな分野で利用されています。
目のレーザー治療の代表はレーザー光凝固です。
糖尿病網膜症は失明に至ることもある怖い病気で、以前は失明原因のトップの病気でした。
しかし図に示す汎網膜光凝固治療 (PRP: panretinal photocoagulation)と呼ばれるレーザー治療の普及で失明のリスクは大きく低下し、日本での失明原因首位の座を緑内障に明け渡して久しくなります。
しかしレーザーポインターを他人の目に向けて照射してはいけないと言われるのに、眼科でのレーザー治療どのようにするのでしょうか?
細隙灯顕微鏡は 眼科では欠かせない診療機器で 照明光経路と観察光経路から成ります。
図はレーザー治療用の装置で、光ファイバーで取り込んだレーザー発生装置からの光を観察光経路に導きます。
その経路の先にある患者さんの目の角膜にコンタクトレンズを接触させると眼底の観察が可能で、狙った部位を凝固します。
照射されたレーザー光のエネルギーは熱に変換されて組織の温度を上昇させます。
すると網膜の細胞を構成する蛋白が熱凝固してその細胞は死滅します。
その結果、体の中の悪い部分を切り取る手術と同等の効果が得られるのです。
レーザー光凝固治療を行う病気には、糖尿病網膜症だけではありません。
網膜静脈閉塞症、放射線網膜症、未熟児網膜症などがあり、虚血性網膜疾患と総称されます。
虚血性網膜疾患では網膜毛細血管の閉塞などによって酸素不足に陥った網膜の細胞からVEGFという悪玉サイトカインが出て、発生する新生血管が出血、網膜剥離、緑内障などの合併症を生じます。
そこで、酸素不足になった網膜の細胞をレーザー光凝固治療で殺してVEGFの発生を抑えることで、これらの合併症を予防、治療します。
(現在では図の黄斑浮腫治療目的のレーザー光凝固は一般的ではなく、主に抗VEGF薬の硝子体注射が行われます。)
眼科でのレーザーの利用は広範囲です。
裂孔原性網膜剝離の原因となる網膜裂孔を塞ぐためのレーザー治療や、急性緑内障発作につながる原発閉塞隅角症へのレーザー虹彩切開術、白内障手術後の後嚢混濁(後発白内障)を切開するためのYAGレーザー治療、近視を矯正するエキシマレーザーやフェムト秒レーザー治療など多くの目的でレーザーが利用されています。