• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

虹彩色素上皮嚢胞と虹彩実質嚢胞

虹彩嚢胞 iris cyst(日眼用語集では虹彩嚢腫とされている)には虹彩色素上皮嚢胞虹彩実質嚢胞が区別されます。
後藤浩. 眼内腫瘍アトラス: 医学書院.5-9. 2019

虹彩色素上皮嚢胞

虹彩色素上皮嚢胞 iris pigment epithelial cystは虹彩の裏面を覆う虹彩色素上皮から発生します。
通常は虹彩表面の隆起図左)として観察され、超音波生体顕微鏡 UBM: ultrasound biomicroscope黄色点線部位の断面を観察すると、虹彩後面に接する嚢胞腔が図右のように低反射腔として観察することができます。
UBMについてはhttp://www.ritz-med.co.jp/info/wp-content/uploads/2017/09/UD-8000AB.pdfのUD-8060(60MHz UBMプローブ)の記載を参照ください。

嚢胞が瞳孔縁から顔を出す場合は黒褐色の嚢胞を直接観察することができます。
瞳孔領の広い範囲をカバーすると視力障害の原因になり、治療が必要です。

虹彩実質嚢胞

虹彩実質嚢胞 iris stromal cystは虹彩実質内にできる嚢胞で、正面から直接観察できます。
虹彩色素上皮嚢胞とは異なり、色は半透明ないし灰白色です。
拡大して角膜内皮に接触する場合は角膜内皮細胞の減少から水泡性角膜症に至るリスクがあるので、手術治療が必要になることがあります。

症例:38歳女性

5歳の時に右眼にガラス片が飛入する外傷があり、手術を受けました。
その後虹彩実質嚢胞を生じて近医で数回嚢胞穿刺術を受けましたが、穿刺部の閉鎖による再発を繰り返していました。
角膜内皮細胞が減少(950/mm2)してきたため、根治治療目的で大学病院を紹介されました。
嚢胞の一部は茶色の正常虹彩組織で覆われていますが、大部分は白色で、図左の赤点線部位での断面を前眼部OCT(カシア)で観察すると、図中央の黄矢印で示すように嚢胞が広い範囲で角膜裏面に接触しています。
その結果、房水からの酸素やグルコースの供給が阻止されるため、角膜内皮細胞が脱落して、図右のスペキュラーマイクロスコープ像のように、角膜内皮細胞の拡大が観察されます。

嚢胞壁の一部を切除して腔をコラプスさせた後、切除縁が再閉鎖しないよう眼内ジアテルミーで凝固して経過観察中です。