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凝固斑拡大 atrophic creep

滲出型加齢黄斑変性に対しては、かつてレーザー光凝固治療が盛んに行われました。
その晩期合併症のひとつにatrophic creepと呼ばれる凝固斑拡大があります。
Morgan CM, Schatz H: Atrophic creep of the retinal pigment epithelium after focal macular photocoagulation. Ophthalmology 96:96-103.1989
atrophic は萎縮atrophyの形容詞でcreepは忍び寄るという意味ですから、緩徐に進行拡大する凝固斑による萎縮という意味です。

atrophic creep の臨床的問題

レーザー光凝固治療は現在でも糖尿病網膜症DRや網膜静脈閉塞症RVOに対して行われ、atrophic creepが問題になることがあります。
たとえば凝固斑の間に健常な網膜が十分残るよう、図左のように直径300µmのレーザー凝固を300µm間隔で行うとします。
数年後atrophic creepによる凝固斑周囲の萎縮が徐々に拡大すると、図右のように健常網膜はほとんど残らず、大きな暗点を生じる萎縮巣になる危険性があります。

レーザー光凝固後の黄斑部萎縮巣

図は10年前にレーザー光凝固を受けた糖尿病網膜症患者さんの右眼の像です。
カラー眼底ではわかりにくいですが、上段中央自発蛍光写真では中心窩に迫る低蛍光のRPE萎縮が観察されます。
これは下段のOCT(点線両矢印の断面)RPEのライン図の左半分で欠如しているのに対応します。
低蛍光部は以前のレーザー光凝固瘢痕が癒合した結果で、図右の中心10度視野絶対暗点に対応します。
OCTでは中心窩にRPEラインが残りますが、その上の視細胞を表すEZは欠如するため、0.1という低視力になっています。

レーザー光凝固斑の拡大動物実験で確認されています。
Lavinsky D et al.: Restoration of retinal morphology and residual scarring after photocoagulation. Acta Ophthalmol 91:e315-23.2013