下斜筋過動症の主訴は内転時の上転です。
機能的に問題になることは少ないですが、目つきの悪さを理由に手術を希望するケースが多く、その場合は下斜筋減弱術が適応です。
下斜筋減弱術には下斜筋後転術と下斜筋切除術があり、筆者はこれまで下斜筋後転術を行ってきました。
左目の場合、下耳側結膜を台形状に切開した後、3時6時の強膜に制御糸をかけて眼球を内上転させます。
外直筋と下直筋の間の強膜を露出すると、ピンク色した下斜筋の筋腹が翻転した結膜フラップ裏面に透けて見えてきます。
テノン嚢内の下斜筋を結膜から剥がし、外直筋の下縁付近の付着部を切断してその断端を下直筋の耳側縁に縫着します。
片目で30-40分かかります。
これに対して下斜筋切除術では3時6時の強膜に制御糸をかけて眼球を内上転させた後、角膜輪部から10mmの結膜を4-5時の範囲で切開すると、テノン嚢内を走行する下斜筋筋腹が発見できます。(図左と中央)
筋腹を2本のペアンで挟んで(図右)その間を切断して断端をジアテルミーで凝固します。
ペアンをはなすと、下直筋側の断端はテノン嚢内に引き込まれるので筋の縫着は不要です。
利点は下斜筋後転術に比べて低侵襲で手術時間が短くて済むことです。
欠点は切断された下斜筋の断端がどこに癒着するのか不明なことと、下斜筋前方移動の応用ができない点です。
しかし多くの斜視教科書で下斜筋切断が基本手術とされているので行ってみました。(上図中央と右)
林孝雄: 上下斜筋手術手技. 眼科 56:819-24.2014
両眼で40分程度で術後の矯正効果も十分満足できるものでした。