眼球は外転する際、外直筋が収縮しますが、その拮抗筋である内直筋は弛緩して伸びます。
この拮抗筋の伸展が制限されると、作用筋の麻痺と同様の眼球運動障害を生じます。
臨床で頻度が高いのは、眼窩下壁骨折や甲状腺眼症https://meisha.info/archives/423による下直筋の伸展障害で、上直筋の麻痺に類似する上転障害がみられます。
下斜筋の作用は外方回旋と内転時の上転で、上斜筋はその拮抗筋です。
Brown症候群では内転時の上転が障害されますが、下斜筋の麻痺ではなく拮抗筋の上斜筋に問題があります。
ただし上斜筋の筋組織(図の茶色部分)自体には異常はなく収縮できます。
上斜筋の収縮力は滑車を通過する上斜筋腱(図の青色部分)によって眼球に伝わります。
Brown症候群では滑車での上斜筋腱の滑りが悪くなるため、上斜筋が拘縮したのと同じような眼球運動障害を示します。
その結果、内転位で上転が制限される下斜筋の麻痺類似のヘス像を示します。(下図左)
また側方視時には、内転する患眼(図では右目)は下方に向かい、外転する健眼が上方に向かう特徴的な眼位となります。(図は幼小児期の斜視手術後、左方視での右眼の上転制限が続いている34歳女性で、整容的改善を希望して受診しました。)
Brown症候群には明かな性差、左右差はなく、先天性と後天性に分類されます。
経過からは、症状が持続するconstant caseと自然軽快するintermittent caseに分かれます。
constant caseが多い先天性の機序としては、上斜筋腱と滑車の複合体としての形成異常が想定されています。
後天性の原因としては滑車周囲局所の炎症、外傷(眼窩底骨折など)、術後性などがあります。
Wilson ME et al: Brown’s syndrome. Surv Ophthalmol 34:153-72.1989
このうち炎症性のBrown症候群では自然に軽快することも少なくありません。
最近経験した2例では、原因不明の内転時の上転制限があり患側滑車部の腫脹/疼痛を訴えて大学病院に紹介されましたが、発症後2-3週後となる大学病院での初診時には症状所見とも目立たず、自然軽快したBrown症候群だったと診断しました。
第一眼位での複視がなければ経過観察が第一選択です。
炎症による後天性Brown症候群で重症のケースではステロイド内服や滑車周囲へのケナコルト注射が奏功することがあります。
頭位異常(顎上げや健側への顔回し)や眼位の外見的改善を希望する場合、上斜筋腱切腱術や延長術などの手術が適応になることもあります。