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黄斑の直径は何mm?

黄斑変性、黄斑ジストロフィ、加齢黄斑変性などの病名に使われる[黄斑]は眼底の中央部分を指す言葉です。
その大きさに関しては直径1.5mmから6mmまでさまざまな記載がみられて混乱しています。

黄斑の直径

たとえば厚生労働省が関係する[難病情報センター]の加齢黄斑変性の説明には[網膜の中心の直径6mmの範囲は黄斑と呼ばれ]とあります。https://www.nanbyou.or.jp/entry/2434
一方で、日本眼科学会のHPの[病名から調べる]の加齢黄斑変性の説明には[黄斑とは網膜の中心にある直径1.5mm~2mm程度の小さな部分の名称で]とあります。https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=52
6mmと2mmではあまりにも異なります。

黄斑輪状反射を黄斑とする考え方

医学生用の眼科教科書、[現代の眼科学第13版]には以下のように記述されています。
[中心窩の周囲、直径約2mmの横楕円形の領域に、若年者では輪状の反射(黄斑輪状反射macular ring reflex)がみられ, これに囲まれている部を黄斑macula lutea(L)という。]
眼底像. In 現代の眼科学第13版: 金原出版.180. 2018

黄斑の直径に関してネット検索でみつかる記述にも1.5-2mmあるいは2-3mmというものが多く、若年者にみられる輪状反射を黄斑とする考え方に基づくようです。

GassのTextbook

しかし世界中の黄斑専門の眼科医がバイブルとしているDonald J Gassの黄斑疾患の教科書の最初の頁(p2)には以下のように記載されています。
[黄斑macula lutea, central retinaはキサントフィルを含み、通常1層の網膜神経節細胞が2-3層に積み重なってみられる直径5.5mmの範囲で、その中心は視神経乳頭中央から4mm耳側で0.8mm下方に位置する]
Gass JDM. Stereoscopic atlas of macular diseases diagnosis and treatment 4th edition. Vol. 1: Mosby-Year Book. 1997

黄斑内のゾーン

組織学的にみれば黄斑はいくつかのゾーンに分かれます。
中心窩は直径1.5mmの陥凹部で、その陥凹の床部分は中心小窩foveolaと呼ばれ、直径0.35mmです。そのさらに中央の窪みはumboと呼ばれます。
また中心小窩を含む直径0.5mmの範囲は網膜毛細血管が及ばない無血管野cfz: capillary free zoneです。
直径1.5mmの中心窩を囲む幅0.5mmの範囲は網膜神経節細胞層、内顆粒層、ヘンレの外網状層が最も厚くなる部分で、傍中心窩parafoveaと呼ばれ、その外縁の直径は2.5mmです。
そのさらに周囲、幅1.5mmは周中心窩perifoveaでその外縁の直径は5.5mmとなります。

なお眼科臨床と解剖学では定義が異なります。
臨床での中心窩は解剖学では中心小窩臨床の黄斑は解剖学では中心窩と呼ばれます。
総論:網膜疾患の理解のための基礎. In: 標準眼科学第14版: 医学書院.148-. 2018

また、日本眼科学会のHPの[病名から調べる]では上記のように黄斑直径が1.5-2mmとされていますが、同じ日本眼科学会から出されているガイドラインでは[萎縮型加齢黄斑変性の診断基準]として[中心窩を中心とする直径6,000µm(=6mm)以内の領域に以下の特徴を満たす地図状萎縮を認める]とあり、黄斑直径に関して6mmとする立場のようです。
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/macular_degeneration.pdf