外転神経麻痺で同側性複視https://meisha.info/archives/365を生じても、原因が糖尿病など血管性の場合予後は良好で、多くは経過観察にて自然に回復します。
しかし外傷性や頭蓋内腫瘍に伴う場合の予後は不良のことが多く、複視解消には手術が必要になります。
畑匡侑. 眼運動神経麻痺. 知っておきたい神経眼科診療: 医学書院.234-45. 2016
手術の適応は発症後6カ月以上経過しても残る同側性複視で、プリズムメガネでも矯正困難な場合です。
根岸貴志: 麻痺性斜視の手術治療. あたらしい眼科 35:343-8.2018
患眼が外転時に正中を超えていれば、外直筋の収縮力が期待できる外直筋の短縮と内直筋後転の前後転術で対応できますが、下図右端のように正中を超えない高度の外転神経麻痺の場合、トーヌスが低下した外直筋の短縮効果はないので、上下直筋の作用方向を変える筋移動術が必要です。
外転神経麻痺による麻痺性内斜視に対する種々の筋移動術のうち、現在本邦で広く行われている西田法では、筋付着部から8-10mm後方の上直筋の外側に糸をかけて、上直筋と外直筋の中間点で角膜輪部から10-12mm後方の強膜に縫着します。
図は麻痺眼が左眼の場合の耳側上方からみた模式図で、非吸収性の縫合糸を青で示しています。
下直筋でも同様に耳側縁を外直筋下縁までの距離の半分の位置に縫着します。
東山智明: 非共同性斜視の手術戦略:麻痺性 眼科手術 31:89-92.2018
術後の上下直筋の走行を上方と外方から見た様子を図に示します。
上段は上方から見た図で、外直筋寄りに移動して強膜に縫着固定した上直筋の耳側筋線維が収縮すると、眼球垂直軸周囲の回転モーメント(実践赤矢印)が生じます。
これが、麻痺した外直筋の回転運動(点線赤矢印)を代替するので、第一眼位で内斜していた患眼(この場合左眼)が正面を向くようになります。
図には示していませんが、下直筋の耳側線維も同様に作用します。