• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

視力だけでは見え方を正しく評価できない

片目の視力が手動弁であれば、重症の目の病気のためにほとんど見えていないだろうと、通常は判断されるでしょう。
しかしその見えにくさは病気によって大きく異なります。
同じ手動弁の白内障、加齢黄斑変性、視神経炎、網膜剥離で比べてみましょう。
手動弁の白内障や加齢黄斑変性の目では、自分の目の前の眼科医がどのような顔なのかはよくわかりませんが、背の高さや男か女かぐらいはわかります。
一方、周辺視野のわずかの部分が残るだけの視神経炎や網膜剥離では視力は同じ手動弁ですが、声を聴かなければ自分の前に人が居ることすらわかりません。
その違いは視野を評価すればわかります。
白内障では手動弁であっても視野欠損はありません。加齢黄斑変性では中心暗点で相手の顔がわかりませんが、それは視野全体の数%程度でしかありません。一方、手動弁の視神経炎や全剥離に近い網膜剥離では、たとえば耳側周辺のわずかな視野が残るのみということがよくあります。

加齢黄斑変性VS視神経症

最近、経験した大学病院への紹介患者です。
[1カ月前に右の目がよく見えないことに気づいた85歳の男性で、矯正視力は手動弁です。眼底検査で黄斑部が粗造にみえるので加齢黄斑変性による黄斑委縮ではないでしょうか。]との紹介状でした。
診察室に入ってきた患者さんに左目を手のひらで隠してもらい、右目で相手の顔が見えるかどうか尋ねると、顔どころか正面は全く見えず、視野の右の方でかすかに何かものがあるのがわかるとのことです。
眼底写真では確かに黄斑には委縮所見はありますが、広い視野障害は説明できません。
いくつかの質問と眼底所見に見合わない視野障害から、後部虚血性視神経症などを含めた右の視神経障害と診断しました。

片目を隠して見え方を尋ねる簡易視野検査

検査員が報告した視力の値と眼底の所見だけで判断せずに、左目を隠して見え方を尋ねる簡易的な視野検査まで行っていれば、紹介してきた眼科医も、視神経障害を黄斑変性と誤ることはなかったと思われます。
視力というのは所詮、中心窩に映る文字をどこまで拡大すればわかるかを見ているにすぎません。
視力値だけでなく、視野も併せて判断しなければ、患者さんの見え方を正しく評価することはできません。
そのためには反対の目を手で隠して眼科医自身の顔がどのように見えるか尋ねるのが簡便な方法です。