BRVO: branch retinal vein occlusion(網膜静脈分枝閉塞症)による黄斑浮腫で視力が低下すると、通常抗VEGF薬の硝子体注射が勧められます。
しかし高額の注射薬であること、眼球への注射を不安に感じる患者さんが多いことなど負の側面を考慮すると、しばらく経過をみることも選択肢のひとつです。
眼科領域での最初の抗VEGF薬はオフラベル(適応外)使用のベバシズマブ(アバスチン)で加齢黄斑変性とともにBRVOに対しても2005年に使用開始されました。
飯島裕幸, 他: ベバシズマブ(アバスチン)硝子体注射に関する全国調査. 眼科 51:927-33.2009
それまでのプレ抗VEGF薬時代の治療には表の内容が含まれました。
1997年のOCT登場以前はFAによってBRVO黄斑浮腫の臨床研究がなされましたが、無治療で経過みても最終的に0.8以上の視力を回復する例が少なくなかったとされます。
綾木雅彦, 桂弘: 網膜静脈分枝閉塞症の自然経過と視力予後. 臨床眼科 39:1347-51.1985
そのことを踏まえて抗VEGF薬が使用できる現在も、本ブログ筆者は発症後3か月程度は治療せずに経過をみる選択肢があることを患者さんに伝えています。
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の疑問(疑問13.) BRVOの黄斑浮腫眼では硝子体注射治療は直ちに開始すべきか? 眼科 60:835-9.2018
1か月前近医で右眼のBRVOによる黄斑浮腫と診断されたHさんは、抗VEGF薬硝子体注射目的で大学病院眼科を紹介されました。
右眼の矯正視力は0.6と軽度低下、黄斑下方には軟性白斑が多発し(図左上)、OCTで確認された黄斑浮腫(図右上)で中心窩網膜厚は570µmでした。
OCT angiography (OCTA)では毛細血管閉塞によるNPA: nonperfusion area(無灌流野)が描出され(図左下)、対応する視野は暗点になっていました(図右下)。
高血圧の治療中でしたが、初診時150/107と血圧の上昇がみられたため、降圧剤の服用を守るよう注意して抗VEGF薬治療は行わず経過観察としました。
視野検査で深い暗点を示す黄斑虚血のBRVO黄斑浮腫眼では無治療での視力予後が良好であることも考慮した判断です。
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の視力低下機序. 眼科 63:227-33.2021
その結果1か月後のOCTでは黄斑浮腫は消退し(中心窩網膜厚:230µm)、視力も0.8と改善しました。
その後も浮腫の再発はなく、抗VEGF薬の使用なしで矯正視力は1.0に回復しました。
目の注射を回避できて視力も回復したことで患者さんも喜んでくれました。
ただし9か月後に右眼下耳側周辺部に細かい新生血管の発生が確認されたので、硝子体出血予防目的でレーザー光凝固治療を行い、さらに3年後まで経過みてフォロー終了としました。
なお黄斑部の虚血によって血管密度が減少しているBRVO黄斑浮腫では抗VEGF薬硝子体注射治療を行った場合でも再発再治療が少ないことが報告されています。
Hasegawa T et al.: Br J Ophthalmol 103:1367-72.2019