眼瞼下垂はさまざまな原因で生じますがhttps://meisha.info/archives/1083、片眼に突発性あるいは急性に生じる場合の多くは動眼神経麻痺です。
動眼神経は内、上、下直筋、下斜筋、眼瞼挙筋の外眼筋と、瞳孔括約筋、毛様体筋の内眼筋を支配します。
そのため眼瞼下垂以外に眼球運動障害による麻痺性外斜視や散瞳による瞳孔不同もみられます。
動眼神経麻痺171例を集めた京都大学の統計では半数以上が60歳以上の高齢者でした。
また原因の4割は血管性で、次いで脳動脈瘤、頭部外傷、脳腫瘍、先天性の順でした。
宮本和明 眼運動神経麻痺をみたら. あたらしい眼科 2013;30: 753-9
脳腫瘍と先天性は突発性ではなく、頭部外傷は経緯から診断できるので、高齢者に片眼性眼瞼下垂が突然みられた場合は、血管性か脳動脈瘤による動眼神経麻痺をまず疑います。
「血管性」というのは動眼神経を栄養する血管の閉塞による虚血性の神経障害で、糖尿病,高血圧,高脂血症,動脈硬化などが危険因子です。
動眼神経麻痺に限らず、滑車神経、外転神経麻痺も含めた眼運動神経麻痺の原因の多くは血管性ですが、いずれも予後は良好で、発症後3カ月で約6割、6カ月では9割が完全に回復するとされます。
宮本和明 麻痺性斜視の経過と予後. 神経眼科 2016;33: 11-5
一方、突発性で片眼性の動眼神経麻痺による眼瞼下垂のもうひとつの主要原因は脳動脈瘤で、放置すればクモ膜下出血に至り生命を失います。
そのため片眼性突発性眼瞼下垂の高齢患者が頭痛を訴え、患眼が散瞳していれば、ただちに脳外科に紹介すべきです。
瞳孔括約筋の麻痺による散瞳は血管性動眼神経麻痺ではまれですが、動脈瘤性ではほぼ必発のためです。
これは動眼神経の内側上方周辺を走行する瞳孔線維が,内頸動脈、後交通動脈分岐部(internal carotid-posterior communicating artery:ICPC)の動脈瘤によって圧迫されやすいためです。
これに対して血管性では、動眼神経の中心を走行する神経線維が障害されやすく、周辺を走行する瞳孔線維の障害はまれです。
また動脈瘤では少量のクモ膜下出血による頭痛を訴えることが多いのに対して、糖尿病による血管性眼運動神経麻痺で頭痛を訴えることはそれほど多くありません。
ただし例外もあるので、散瞳、頭痛なしでもMRIなどで頭蓋内の精査は怠るべきではないでしょう。
板野瑞穂他. 大阪医科大学附属病院眼科における糖尿病性眼筋麻痺の検討. 臨床眼科 2017;71: 1755-9