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蒸発亢進型ドライアイとマイボーム腺機能不全

ドライアイの3タイプのうち、蒸発亢進型ドライアイの主要原因はマイボーム腺機能不全(MGD)です。https://meisha.info/archives/1172

マイボーム腺機能不全(MGD)の分類

MGDの多くはマイボーム腺からの油脂の分泌が少なくなる分泌減少型MGDです。
その機序には閉塞性と委縮性があります。
天野史郎: マイボーム腺機能不全の定義と診断基準. あたらしい眼科 27:627-31.2010

閉塞性MGDはさらに、マイボーム腺の開口部周囲の発赤腫脹など示す炎症性のマイボーム腺炎と、そのような所見に乏しい非炎症性に分類できます。
炎症の主な原因は細菌感染で、マイボーム腺からの分泌物meibumから分離されることの多い表皮ブドウ球菌や嫌気性細菌のC. acnes(Cutibacterium acnesで以前はPropionibacterium acnesと呼ばれていた)が重要です。
鈴木智: マイボーム腺と角膜. 眼科 62:775-80.2020
炎症性、閉塞性、分泌減少型MGDのマイボーム腺炎による変化は、まぶたの縁の後方に位置するマイボーム腺開口部付近に主にみられるので後部眼瞼縁炎と呼ばれることもあります。
https://www.lime.jp/main/blepharitis

アジマイシン点眼薬

マイボーム腺炎に対しては組織への移行性がよいテトラサイクリン系抗菌薬のミノマイシンやマクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシンの内服が有効とされてきました。
横井則彦: マイボーム腺炎関連角膜上皮障害. 臨床眼科 70:119-24.2016
最近(2019/9)発売された点眼薬アジマイシンは、結膜炎や前部眼瞼炎の麦粒腫だけでなく、MGDに関連する後部眼瞼炎に対しても治療効果を発揮します。
有田玲子: アジスロマイシン点眼液. 眼科 62:259-62.2020
アジマイシンはマクロライド系抗菌薬のアジスロマイシンの点眼製剤で、細菌に特異的な50Sリボソームによる蛋白合成を阻害して静菌的に働きます。
また抗菌作用以外に炎症性サイトカインを抑える抗炎症作用もあります。

アジマイシン点眼薬の油分泌促進作用

アジマイシンにはさらにマイボーム腺からの油の分泌を増加させる作用もあることが報告されました。
Liu Y, Kam WR, Ding J, Sullivan DA: Effect of azithromycin on lipid accumulation in immortalized human meibomian gland epithelial cells. JAMA Ophthalmol 132:226-8.2014
ドライアイの3タイプのうち、涙液分泌低下型には人工涙液が、水濡れ性低下型のムチンの不足にはジクアスやムコスタの点眼薬があります。
一方、蒸発亢進型の原因になる油層の不足を補う点眼薬はありませんでしたがhttps://meisha.info/archives/1172、アジマイシン点眼薬はその新しい治療薬として期待できます。
ただしアジマイシン点眼薬の適応症は結膜炎、眼瞼炎、麦粒腫、涙嚢炎ですので、ドライアイではなくあくまでも眼瞼炎治療としての使用になります。