• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

心因性視覚障害

小中学校では裸眼視力を測る視力検査を毎年行います。
その結果、視力不良として眼科受診を指示される児童の多くは近視あるいは近視性乱視です。https://meisha.info/archives/295
適切な矯正メガネを掛ければ1.0の正常矯正視力になります。
しかしメガネでの矯正視力も不良で、角膜や網膜など眼球の検査でも異常がみつからない場合には弱視心因性視覚障害(あるいは心因性視力障害)が疑われます。

弱視VS心因性視覚障害

8歳の小学2年生の女児Sさんは学校の視力検査で視力不良とされて近くの眼科医院にかかりました。
両目とも裸眼視力は0.1で、+1.0D cyl -0.5D Ax180のメガネによる矯正視力も0.2だったので、屈折異常弱視の疑いで大学病院の眼科に紹介されてきました。
しかし1年生の時の視力検査では問題なかったとのことで弱視は否定的です。
弱視は視力の発達障害なので一度1.0の正常視力であったものが0.2に低下することは考えにくいからです。https://meisha.info/archives/515
さらに母親や本人から話を聴くと、視力が悪いからといって、自宅でTVを観るときや学校の授業で困ることはないとのことです。

レンズ打ち消し法による視力検査

そこで心因性視覚障害を疑ってトリックによる視力検査を行いました。http://www.japo-web.jp/info_ippan_page.php?id=page34


Sさんの屈折異常はわずかですので、(A)の裸眼の状態でも網膜像は鮮明です。しかしそれで0.1程度の視力ということは、脳のレベルでの像は不鮮明と考えられます。
そこでまず+2D程度の凸レンズのメガネを装用させて、網膜像も(B)のようにぼやけさせます。
その後、-0.5Dの凹レンズを凸レンズの前に追加すると、ピントの合う位置が網膜に近づくので、(C)のように網膜像は(B)よりは鮮明になり、Sさんもそのことは実感します。
そこで「もう少しレンズを替えていくのでもっと見易くなるよ」などと励ましながら-2Dのレンズまで増やして行きます。
(D)のように+2Dと-2Dの凸と凹のレンズが打ち消し合って、実質的に(A)と同じ状態にすると、今度は1.0の視標まで読めるようになったので、脳の像も鮮明になったと考えられます。

(A) と(D)の屈折矯正は等価ですが、網膜→脳への視覚情報伝達に関与する心理的ストレスの影響を除去できた結果、1.0の視力になったと考えられます。
ここでいう脳は一次視覚領ではなく高次視覚野も含めた脳の情報処理での結果のようです。
荒木俊介, 三木淳史. 心因性視覚障害. In: 三木淳史, 荒木俊介編. 小児の弱視と視機能発達: p66-70 三輪書店. 2020
このような視力検査はレンズ打ち消し法またはトリックテストと呼ばれます。

非転換型の心因性視覚障害

心因性視覚障害は心理的ストレスが原因で起こる視機能障害です。
原因となる心理的ストレスを自覚していない非転換型と自覚している転換型に分類されます。
東山智明. 心因性視覚障害. In: 東範行 編 小児眼科学: p431-435三輪書店. 2015
Sさんのような非転換型では視力低下の自覚に乏しく、多くは学校の検査で視力低下を指摘されて初めて眼科を受診します。
日常生活で困る、あるいは黒板の文字が読めないなど学習での不都合はないことが多いのが特徴です。
原因としてはいじめ、先生や友人との関係、部活、家庭での叱責、両親の不仲、母親の愛情不足など多岐にわたります。
そこで対応としてはそのようなストレスの解消に向けての両親や担任の教師へのアドバイスが重要になります。