• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

屋外活動と近視進行予防

前回「見るだけで目が良くなる」が謳い文句の本の「良くなる」根拠の科学的な検証はされていないことを紹介しました。https://meisha.info/archives/1630
そのような本の読者には、子供の近視進行を心配する母親が含まれます。

近視人口の急増

近年、世界中、特にアジアで近視は急速に増えていています。
図の折れ線グラフは国際科学雑誌Natureに掲載された香港、台湾、シンガポール、韓国における20歳人口に占める近視の割合で、半世紀の間に急速に増加していることを示しています。
Dolgin E: The myopia boom. Nature 519: 276-278, 2015.

近視研究

近視の原因の多くは眼球の前後径(眼軸長)が延長する軸性近視https://meisha.info/archives/933です。
近年、眼科用の検査機器の発達で、眼軸長近視度数は正確で簡便に計測できるようになりました。
その結果、近視の発生や進行に関するエビデンスのある研究成果が次々に報告されています。

近視進行予防の対策と治療

現在、近視進行の予防に効果のある対策や治療は以下の3つに集約されます。
1. 屋外活動時間の増加
2. 低濃度アトロピン点眼
3. 治療用コンタクトレンズ
平岡孝浩: 近視進行抑制 最近の動向. 臨床眼科 73: 979-989, 2019.
なお近視発生に関しては遺伝的要因も重要ですが、関連する遺伝子が多岐にわたり、現在のところ治療に結び付く研究成果は見当たりません。

一方、「見るだけで目が良くなる」とする本の効果も、検証は容易なはずですが、科学的な報告はみられません。

屋外活動

なかでも「屋外活動時間が長いほど近視になりにくい」とする疫学データは豊富です。
これはその分、屋内での近業時間が短くなるためではありません。
近業時間をそろえた上での比較でも、屋外活動の近視予防効果は証明されています。
Rose KA et al.: Outdoor activity reduces the prevalence of myopia in children. Ophthalmology 115: 1279-1285, 2008.

実際に小学校での休み時間を屋外で過ごすプログラムによって、近視発生と進行が抑制されたことが、下記論文で報告されています。
Wu PC et al: Outdoor activity during class recess reduces myopia onset and progression in school children. Ophthalmology 120: 1080-1085, 2013.