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「見るだけで目が良くなる」?

書店の健康本コーナーの目につきやすい棚には、「見るだけで目が良くなる」の類の写真集やドリル本がに並んでいます。

「見るだけで目が良くなる」本は3種類

その内容は大別すると3種類です。
1. 遠景の風景写真集
これは遠くを見ることで調節の緊張を緩和して、毛様体筋をリラックスさせる効果を期待しています。
しかし、実際には眼前30センチの距離の写真にピントを合わせているので毛様体筋は緊張したままのはずです。https://meisha.info/archives/354
2. ガボールパッチと呼ばれるぼやけた線の方向を答えさせる本
3. 立体視訓練の本(マジカルアイシリーズ)https://meisha.info/archives/433

「見るだけで目が良くなる」をネットで検索しても、これらの本の通販サイトが数十件にわたって上位に並びます。
「見るだけ」はわかりますが「目が良くなる」とはどういうことでしょうか?

「目が良くなる」とは?

具体的に何がよくなるのか?、具体的には以下の3つになるでしょう。
1. 視力が良くなる。
2. 近視が軽くなる。
3. 目の疲れがとれる。

目が良くなる効果の科学的な検証

いずれも科学的に認められる手法でその効果を検証することは可能ですが、残念ながらそのような報告が学会や論文に発表されたことはありません。
唯一、ガボールパッチを使用したトレーニングで視力が改善したとする論文はありました。
しかしその解釈は目の機能が改善したわけではなく、脳内での情報処理能力の改善でぼやけた文字を読み取る能力が向上したというものです。(脳内視力の改善
このことはかなり以前、本ブログの記事で解説しましたが、https://meisha.info/archives/354以下に再掲します。

ガボールパッチ

ガボールパッチ弱視の研究でよく使用される図のような視標刺激です。

米国のニューロビジョンという会社はこの視標を使って視力を改善させるコンピュータプログラムを開発しました。
そして軽度の近視患者(近視の度数で-1.75Dまで)にこのプログラムを使用した訓練を行ったところ、裸眼視力が改善したと報告しました。
Durrie D et al (2007). Computer-based primary visual cortex training for treatment of low myopia and early presbyopia. Trans Am Ophthalmol Soc 105:132-140
しかしこの論文では訓練の前後で裸眼視力は改善したが近視度数は変化なかったとされています。
つまり近視という眼球の屈折異常の状態は変わらないので視力表はぼやけているものの、脳の機能を高めることで軽度の近視であれば裸眼視力の値は向上するということです。
この報告を根拠にして、コンピュータプログラムではなく、紙に印刷したガボールパッチ図形を見せて、同じパターンを探させるという訓練で視力改善につなげようという本が書店に並んで売れています。
近視の進行阻止はできないものの、軽度の近視であれば裸眼視力の改善は期待できるかもしれません。