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マジカルアイで視力は改善するか?

前回、2020/8/29[見るだけで視力がよくなる本https://meisha.info/archives/354
について私見を披露しました。
その際に検討した[目が良くなる風景写真]の本では、遠景の写真であっても手元の本にピントを合わせるので目の調節機能は緊張したままで緩まない、
またガボールパッチというぼやけた縞の方向を答えるトレーニングの本は、網膜像ではなく脳内の情報処理機能を鍛えるので、眼球自体の屈折異常である近視の改善にはつながらない
ということを説明しました。
しかしこれらの2種類の本以上に巷でよく売れているのは[マジカルアイ]という立体視の本です。
https://www.amazon.co.jp/gp/bestsellers/books/2133640051/ref=pd_zg_hrsr_books

平行法による立体視訓練

これは平行法という見方によって平面に印刷された写真を立体的に観察するもので、隠れていた像が浮き上がって見えます。
平行法での立体視について経験がなかったので、1冊購入して、自分自身でも体験してみました。
解説に従って練習すると、1枚の絵につき数分がんばると立体的に見えるようになり、そのこと自体には小さな感動を覚えます。
しかしこれで目が良くなる(視力の値が向上する)でしょうか?

近視、乱視、老視の原因

2020年7月21日発行の第2刷の[どんどん目が良くなるマジカルアイ、美しい風景]の2頁には、視力回復効果の理由が以下のように記載されています。
近視や乱視、老眼は毛様体筋が柔軟性を失ってピントを調節できないために起こる]
しかしこれは誤りです。
多くの近視は眼軸長、すなわち角膜から網膜までの距離が延長することが原因です(軸性近視)。
乱視の主な原因は不均一な角膜のカーブです(角膜乱視)。
老眼(老視)での調節力低下は毛様体筋の問題ではなく水晶体の弾力性が低下するためです。


老眼の調節力低下に関しては、2019年の医師国家試験でも出題されました。
国試問題 113E-6(2019年)(正答率:91%)
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/topics/tp190415-01.html
正解はcの水晶体で正答率は91%です。
眼科医でなくとも医師になるほとんどの人は老眼の原因が水晶体であることを知っています。

平行法の開散では調節ラグを生じる

マジカルアイの写真を平行法で立体視する際には写真よりも遠方を見ます。
その際、写真上の2つの点は3つの点に見えます。
これは両目の視線を開散(輻湊の逆)しているためです。
輻湊と調節は連動して分離できないのでhttps://meisha.info/archives/53、開散して写真が立体的に見えている時には調節は緩んでいます。
その結果、近方の写真の像は網膜の後方に出来るので、幾分ぼやけているはずです。(残念ながら軽度の近視でほぼ完全な老視の筆者の目では調節力がゼロなので、輻湊-調節のメカニズムによるぼやけを実感できませんが、若い目であればそうでしょう。)

近視の調節ラグ説


近年の近視学の理論では、近視で眼軸が延長するメカニズムは網膜後方へのデフォーカスである調節ラグ(lag of accommodation)とされています。
長谷部聡 (2020). “学童期の近視進行抑制に関するEBM.” 日本眼科学会雑誌 124(1): 37-53.

調節力のある子供がマジカルアイの写真を平行法で見て、立体的に見えている時には、まさに調節ラグを生じているので、近視の進行を抑制するどころかむしろ促進しているはずです。
ただし[視力がよくなるかどうかはまだわからないけれど、面白いので満足しています。]という読者からのコメントには納得できます。