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網膜有髄神経線維

網膜有髄神経線維は網膜神経線維の走行に沿う白色刷毛状の眼底異常です。
多くは視神経乳頭に連続してみられますが、乳頭から離れて見られることもあります。
多くは無症状で人間ドックや健康診断での眼底写真で偶然に発見されます。

有髄神経線維と無髄神経線維

神経線維は神経細胞から延びる軸索で、周囲を髄鞘で覆われた有髄神経線維と被覆なしの無髄神経線維に分類されます。
網膜の最表層を走行する網膜神経線維は網膜神経節細胞の軸索で、眼球内では無髄ですが、視神経乳頭に集まった後、篩状板から眼球外に出る際に有髄となって視神経になります。

視神経の髄鞘形成とその先天異常

網膜有髄神経線維は、眼球内で本来無髄のはずの神経線維が有髄となる先天異常です。
中枢神経系の神経線維は通常、オリゴデンドロサイトによって髄鞘化されます。
視神経とその先の視索を構成する神経線維では、外側膝状体から眼球側に向かう髄鞘化が胎生32週頃にスタートして、生後1カ月頃に篩状板に達して終了します。
網膜有髄神経線維は何らかの原因で一部の神経線維の髄鞘化が篩状板を超えて網膜内まで進行した結果と考えられます。

有髄神経線維が原因の眼軸延長

視力は通常障害されませんが、広汎な網膜有髄神経線維は、異常が黄斑に及ばなくても、眼軸延長による強度近視不同視弱視https://meisha.info/archives/515となることが報告されています。
根岸貴志 他: 網膜有髄神経線維による弱視の5例. 眼科臨床医報 99: 166-169, 2005.

図は4歳女児で、左目の広汎な有髄神経線維が原因の強度近視による不同視弱視の例です。
矯正視力は1.2/0.04でした。

不鮮明な網膜像による眼軸長延長の近視化

生まれたばかりの猿の眼瞼を縫合すると、眼軸が延長して近視化するサルの実験近視モデルは有名です。
Wiesel TN, Raviola E: Myopia and eye enlargement after neonatal lid fusion in monkeys. Nature 266: 66-68, 1977.
この近視モデルは不鮮明な網膜像が眼軸長延長を生じる form-deprivation myopia という近視化メカニズムと考えられています。
世古裕子: 実験近視. OCULISTA 4: 27-36, 2013.
網膜有髄神経線維による不鮮明な網膜像が広い範囲で生じていると、中心窩の像には問題がなくても、同様の機序で眼軸が延長して不同視弱視を生じると考えられます。