眼科でのレーザー治療には多くの種類がありますが、その代表は虚血に陥った網膜を焼き殺すレーザー光凝固治療です。https://meisha.info/archives/321
これは網膜から硝子体に向かって伸びる新生血管NV: neovascularizationによって発生する硝子体出血や牽引性網膜剥離など合併症の予防が目的です。
NVの成長に必要なVEGFの発生源である虚血網膜がレーザー凝固で壊死すれば、NVは自然に退縮します。
この治療の対象の多くは、増殖糖尿病網膜症あるいはその前段階の増殖前糖尿病網膜症ですが、虚血型の網膜静脈分枝閉塞症BRVO: branch retinal vein occlusionも対象です。
虚血型BRVOでは図のフルオレセイン蛍光眼底造影FA: fluorescein angiogramにて、毛細血管像が脱落する網膜無灌流野NPA: non-perfusion areaが拡がります。
NPAの網膜からはVEGFが産生され、これが近隣の網膜血管に働いて網膜新生血管NVを生じます。
虚血型BRVO眼に対する硝子体出血予防のレーザー光凝固治療の有効性は、米国で行われ1986年に発表され多施設ランダム化比較試験RCT: randomized clinical trialで証明されました。
Branch Vein Occlusion Study Group: Argon laser scatter photocoagulation for prevention of neovascularization and vitreous hemorrhage in branch vein occlusion. A randomized clinical trial. Arch Ophthalmol 104: 34-41, 1986.
ただしレーザー治療を行う時期はNPAが確認された時期ではなく、NVが確認された時期(図のB)に行うべきとされました。
それはNPAがみられても、そのうちでNVを生じる症例は少数派なので、図のAの時期にレーザー治療を行うと治療の必要のない多くの症例に対して過剰治療になるからという理由です。
初診時、右眼の矯正視力0.07で、眼底には上方網膜主体に軟性白斑が多発する急性期CRVO像でした(図左)。
中心窩網膜厚が900µmの高度の黄斑浮腫がありましたが、抗VEGF薬硝子体注射で浮腫は消退して0.5の視力に改善しました。
検眼鏡的にはCRVOですが光干渉断層血管撮影OCTAでは網膜虚血は上方の網膜血管が主体でその領域にNPAが確認され虚血型BRVOに近い形でした。
ただちにはレーザー光凝固は行わず経過観察としました。
初診から8カ月後、上耳側静脈に明らかな新生血管がみられたため(図左から2番目白矢印)、レーザー光凝固治療を開始し(図左から3番目)、1カ月後にはNVは消失しました(図右、白矢印)。このあと周辺にもレーザーを追加しました。