• 眼科通院中の患者さんや眼科医向けの役立ち情報

NV-の虚血型BRVO

網膜無灌流野NPAが確認される虚血型BRVOの晩期合併症として、新生血管NVの破綻による硝子体出血VHがあります。
1986年に発表された有名なBVOスタディでは、その予防のため4カ月ごとに経過観察し、NV+となった時点で、周辺部網膜に散発レーザー光凝固を行うことを推奨しています。
Branch Vein Occlusion Study Group: Argon laser scatter photocoagulation for prevention of neovascularization and vitreous hemorrhage in branch vein occlusion. A randomized clinical trial. Arch Ophthalmol 104: 34-41, 1986.

経過観察とレーザー光凝固

前回、その推奨方針に合致した実際の症例を提示しました。https://meisha.info/archives/2221
下図中段に示すように、発症から8カ月という比較的早い時期にNV+となったのでレーザー光凝固を行い、経過観察を終了できました。
しかし下図下段に示すように、4カ月ごとの経過観察を続けてもNV -のままのケースも多く、その場合、何年先までこれを続けるのかという問題が生じます。

4M毎の経過観察を終了させる方法

NPA+虚血型BRVOの患者さんで4カ月ごとの再診を続けてもNV –の場合、患者さんからは[いつまで通わないといけないのですか?]という質問を受けます。
その際の解決策には2通りあります。

1. VHを起こした場合は硝子体手術を行うことを前提に、経過観察を終了する
2. NV –であってもレーザー光凝固を行い、経過観察を終了する

硝子体手術前提で経過観察終了

現在、眼科の網膜専門医は網膜外科surgical retina網膜内科medical retinaに分かれます。
硝子体手術が得意な網膜外科医は1.の方針を選びがちです。
BRVOに続発するVHでは増殖性変化が軽微で硝子体手術の難易度は高くなく、そのため仮にVHが起こっても、比較的安全な手術で出血前の視力を回復できると考えるからです。
しかしそれでも突然片目が見えなくなり、その後目の手術で入院(日帰り硝子体手術で行う施設もありますが)しなければならないことは患者さんにとっては負担になります。

NVなしでもレーザー光凝固

そこで網膜内科医である筆者は2. のレーザー光凝固を勧めます。
VHを起こさないかもしれない目に対するレーザー光凝固治療のデメリットは

1. 医療コスト:約10万円のレーザー光凝固治療費用
2. レーザー光凝固による視野障害

の2点です。
1の医療コストに関しては、レーザー治療を先送りする経過観察のほうが患者さんの負担増になることがあります。
もう一つの欠点の視野障害はレーザー治療の副作用です。
特に出血の目立つ急性期のBRVOに対してレーザー光凝固すると、網膜内層の神経線維を障害して思わぬ医原性暗点を生じることがあります。
飯島裕幸: 網膜疾患の評価と視野検査法. OCULISTA 11 【視野検査update】 67-77, 2014.
飯島裕幸: 網膜静脈分枝閉塞症の治療戦略. あたらしい眼科 31: 1119-1124, 2014.

NPA部位はすでに暗点

しかし虚血型BRVOで広いNPAがありその状態が半年以上持続している多くの目では、NPAに対応応する視野はすでに絶対暗点になっています。
Iijima H: Reduced light sensitivity due to impaired retinal perfusion in branch retinal vein occlusion. Jpn J Ophthalmol 62: 151-157, 2018.

ハンフリー30-2視野検査で暗点を確認してレーザー光凝固

そこで、レーザー光凝固治療前にハンフリー30-2視野にて絶対暗点の拡がりを確認し、対応する網膜範囲内でレーザー光凝固を行えば、暗点の拡大や悪化はなく、患者さんにとって治療による視機能上のデメリットはありません。
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の疑問(疑問9) BRVOの無血管野は直ちにレーザー光凝固すべきか? 眼科 59: 1599-1603, 2017.