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QOLを考慮した甲状腺眼症治療

甲状腺眼症の治療方針重症度活動性の有無で決まります。https://meisha.info/archives/2540
3段階の重症度で2番目の「中等度~重症」と判定されて活動性があれば、免疫抑制療法であるステロイドパルス治療が原則です。

2020年に刊行された甲状腺眼症診療の手引き(日本甲状腺学会, 日本内分泌学会編集)の29頁には、「中等度~重症」に関して以下のように記載されています。
中等度~重症とは、失明の恐れはないが、上眼瞼後退、眼瞼腫脹、複視などの眼症状が日常生活に重大な影響を及ぼしている状態で、活動性があれば免疫抑制療法を、活動性がなければ手術治療を行うべき症例である」

QOL: quality of life(生活の質)

ここに記載された「日常生活に重大な影響」は、手引き37頁の[QOLの評価法]で、視機能上のQOLと、社会心理面のQOLに分けて評価されます。

視機能上のQOL

甲状腺眼症で問題になる視機能は視力と両眼視機能です。
重度の視力障害は視神経症兎眼による角膜潰瘍で生じ、その重症度は「最重症」です。
閉瞼障害や涙腺障害によるドライアイでも軽度の視力低下はみられますが、その場合は[軽症]で点眼治療などの局所治療を考慮します。
両眼視機能が障害される複視は外眼筋の炎症による眼球運動障害で生じて、「中等度~重症」に分類され、活動性があれば免疫抑制療法、なければ斜視手術を受けます。

社会心理面のQOL

社会心理面で問題になるのは上眼瞼後退https://meisha.info/archives/2530結膜充血などでの顔貌の変化です。
そのため、「人前にでられない」、「サングラスが外せない」、「周りの視線が気になる」などの精神的ストレスが問題になります。

社会心理面のQOLを評価した甲状腺眼症治療

以前は眼球突出や瞼裂開大などで顔貌に問題があっても、視神経障害や複視がなければ免疫抑制療法は行わず経過観察とする考え方が主流でした。
近年、視機能面のQOL低下が軽度でも、顔貌の変化による社会心理面のQOL低下が著しければ、免疫抑制治療に踏み切るべきとする考え方が広まっています。
具体的には、下記の表の16項目の質問票(GO-QOL)に回答してもらいます。
Terwee CB et al: Development of a disease specific quality of life questionnaire for patients with Graves’ ophthalmopathy: the GO-QOL. Br J Ophthalmol 82: 773-779, 1998.
視機能面も含めたQOLは16項目の質問を行いますが、社会心理面のQOL評価には下半分の8項目の質問で点数を出して、点数が低いと免疫抑制療法などの治療も検討します。