眼科医はフルオレセインナトリウムという蛍光色素を使って涙を可視化したり、角膜の傷を見つけたり、網膜の毛細血管を際立たせて画像化したりすることを2020/8/22の[フルオと蛍光]https://meisha.info/archives/283で紹介しました。
フルオは蛍光を発する薬剤ですが、眼底にはリポフスチンという自前の蛍光物質があります。
広角眼底撮影できるオプトスの自発蛍光モードを使えば、眼底の自発蛍光を容易に観察できます。
この検査は網膜の最外層にある網膜色素上皮の病気の診断に特に役立ちます。
リポフスチンは光を感じる網膜視細胞の外節に含まれるロドプシンなどの視物質が変化したものです。
使用済みの外節を処理する網膜色素上皮細胞に蓄積されて自発蛍光を発します。
正常眼では眼底全体が淡い蛍光を発しますが、病的状態では過蛍光、低蛍光、無蛍光がみられます。
中でも境界の明瞭な無蛍光像はその画像だけで診断ができるほど診断能力に優れています。
網膜色素上皮が欠如するような病態では、真っ黒な無蛍光像として病変が明瞭に描出されます。
網膜色素上皮裂孔では網膜色素上皮に裂け目ができて、その部分は眼底自発蛍光が欠如する真っ黒な像になります。
網膜色素上皮剥離の状態から誘因なく特発性に生じる場合や光線力学的療法や抗VEGF薬治療に誘発されて生じる場合があります。
網膜色素上皮の欠損部分に中心窩が含まれると著しい視力低下をきたします。
網膜色素線条は弾力線維の遺伝的欠陥によってブルッフ膜が地割れ状に裂けてその上の網膜色素上皮が欠如します。
視神経乳頭から放射状に広がる地割れ状の低蛍光が両目にみられれば網膜色素線条と診断できます。
黄斑部に脈絡膜新生血管を生じて滲出型加齢黄斑変性と同様の変化を示すことがあります。
また全身的には皮膚の弾力線維性仮性黄色腫がみられ、心臓弁膜症や大動脈解離などのリスクを高めます。
レーザー光凝固を行うとその部位の網膜色素上皮細胞が死滅し、数か月で凝固斑の形の無蛍光を示すようになります。
凝固部位の確認にはとても便利です。
視細胞とともに網膜色素上皮細胞が委縮する黄斑ジストロフィや網膜色素変性(図左)では眼底自発蛍光が減少して、それぞれ黄斑部や周辺網膜で低蛍光を示します。
視細胞の外節が網膜色素上皮細胞によって貪食されずに、網膜下液中に貯留する中心性漿液性脈絡網膜症(図右)では、網膜下液の存在する(あるいはかつて長く存在した)部位で自発蛍光が正常よりも増強する過蛍光を示します。
網膜色素変性で視細胞が残存する部位を囲む過蛍光リング(図左)もこの病気の特徴です。
これ以外にも眼底自発蛍光の診断的価値が高い病気は多いので、オプトス撮影の際には、合成カラー画像(赤色と緑色レーザーによる疑似カラー画像)だけでなく、眼底自発蛍光(af)画像も一緒に撮影するよう若い眼科医には指導しています。