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MPPE と Bullous retinal detachment

1977年、宇山らは後極部網膜に散在する滲出斑と続発性網膜剥離を特徴とする18例35眼を報告し、中心性漿液性脈絡網膜症CSC、原田病、uveal effusionなどとは異なる独立した一つのclinical entityとして、多発性後極部網膜色素上皮症 MPPE:multifocal posterior pigment epitheliopathyと命名しました。
宇山昌延, 塚原勇, 朝山邦夫: Multicocal posterior pigment epitheliopathy 多発性後極部網膜色素上皮症とその光凝固による治療. 臨床眼科 31:359-72.1977

図はブログ著者が1980年頃に経験した同様症例の写真です。
下方網膜は剥離し、黄斑周囲に多発する白色の滲出斑の多くでは中央に褐色のヘソがみられます。
(ただし最近はこのようなヘソのある滲出斑のケースを経験することはまれになりました。)

MPPEに類似する病態は宇山らの報告の4年前、1973年にGassによって5例がBullous retinal detachmentとして症例報告されています。
Gass JD: Bullous retinal detachment. An unusual manifestation of idiopathic central serous choroidopathy. Am J Ophthalmol 75:810-21.1973

両者の共通点

MPPEとBullous retinal detachment、両者の共通点は以下のごとくです。
1) 健康な成人あるいは中年男性で多くは両眼に好発
2) 繰り返すCSCの既往
3) FAでの旺盛な蛍光漏出
4)
眼底後極部の漿液性網膜剥離に加えて、体位変動によって網膜下液が移動する下方周辺眼底の胞状網膜剥離
5)
蛍光漏出部への光凝固治療が有効

下方の胞状網膜剥離と網膜下液の可動性

上記4) に関しては、論文に掲載された眼底のスケッチ像をみると、両者が似通っていることがわかります。

下液の移動性に関しては最近の自験例でも確認し、超広角眼底カメラで移動の様子を撮影できた画像を示しました。https://meisha.info/archives/1893

CSCの劇症型か?

Gassはこの病態をCSCの重篤な特殊型unusual manifestation of idiopathic central serous choroidopathyとしました。
一方、宇山らは当初、CSCの劇症型とするより別の疾患とみるのが妥当であると記載し、15年後の1992年の論文でも[両者は同じspectrumの両端にあって、MPPEは臨床所見から中心性網膜炎とは独立した疾患概念をもつ1病型として取り扱うのが妥当であることを確認した。]と述べています。
松永裕史, 西村哲哉, 宇山昌延: 多発性後極部網膜色素上皮症 最近の経験症例. 臨床眼科 46:729-33.1992
ただしさらに7年後の1999年には ”In MPPE, a severe form of CSC, the retinal pigment epithelium is involved extensively and widely, and prognosis is unfavorable.”との記載で[MPPEがCSCの劇症型]とする考え方を肯定しています。
Uyama M et al.: Indocyanine green angiography and pathophysiology of multifocal posterior pigment epitheliopathy. Retina 19:12-21.1999

日本ではMPPE、海外ではbullous retinal detachment

以上のような歴史的背景があって、日本では現在でも本症はMPPE、すなわち多発性後極部網膜色素上皮症という病名で多く報告されています。
しかし海外ではmultifocal posterior pigment epitheliopathy という病名は普及せず、bullous variant of CSCatypical CSC with a bullous retinal detachmentなどと報告されています。