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MPPEでみられるドーナッツ状網膜下滲出斑

1977年に宇山らが報告した多発性後極部網膜色素上皮症 MPPEと、その4年前の1973年にGassが報告したBullous retinal detachmentは、現在では中心性漿液性脈絡網膜症CSCの劇症型とされています。https://meisha.info/archives/3699
両者はともに眼底後極部の漿液性網膜剥離図右のたて方向のOCT像)と可動性のある眼底下方周辺の胞状網膜剥離図左)を特徴とします。

宇山らのMPPEとGassのBullous retinal detachmentの違い

網膜色素上皮RPEの漿液性剥離、すなわちPED: Pigment epithelial detachmentは通常のCSCでもみられますが、Gassは1ないし複数個のPEDを伴うことが特徴としています。
さらにPEDのRPE欠損部から蛍光が漏出するFA像を1例で示し、下方の胞状剥離の原因であることを示唆しています。
Gass JD: Bullous retinal detachment. An unusual manifestation of idiopathic central serous choroidopathy. Am J Ophthalmol 75:810-21.1973

一方宇山らは、混濁した黄白色の滲出斑からの旺盛な血漿成分の漏出で胞状網膜剥離を生じ、その原因は多発するRPEの何らかの病変だが、滲出斑の部位では明らかなPEDは確認できなかったとしています。
宇山昌延, 塚原勇, 朝山邦夫: Multicocal posterior pigment epitheliopathy 多発性後極部網膜色素上皮症とその光凝固による治療. 臨床眼科 31:359-72.1977
しかし漏出部が多発した自験例のFAを観察すると、後期像(図の下段)で比較的大きな過蛍光像を示す漏出部は、早期像(図の上段)の同じ範囲でも過蛍光なのでPEDかもしれません。

ドーナッツ状の網膜下滲出斑

宇山らのMPPEの特徴のひとつに、中央に褐色のヘソのあるドーナッツ状の網膜下滲出斑があります。
ブログ著者も1980年頃、このようなヘソのある網膜下滲出斑の症例を何例か経験しました。
しかしGassの記載に網膜下液の混濁はありますが、ドーナッツ状との記載はありません。

宇山らはヘソの病態は不明だとしながらも、混濁する網膜下滲出斑は破綻したRPEの血液網膜関門を通って勢いよく漏出する血漿成分が、網膜外境界膜ELMをこわして網膜実質内に侵入した結果の網膜浮腫だろうと説明しました。
OCTがまだなかった当時、病変の深さの確認は細隙灯顕微鏡による観察に頼らざるを得ませんでした。
Gassは網膜下液の混濁はフィブリンの析出としましたが、宇山らは滲出斑の混濁は感覚網膜深層の浮腫であるとしました。
Uyama M et al.: Indocyanine green angiography and pathophysiology of multifocal posterior pigment epitheliopathy. Retina 19:12-21.1999
OCTで病変をみることのできるようになり、関西医大教授だった宇山氏の教え子にあたる高橋寛二氏は、ヘソのある滲出斑を示すMPPE症例で、これが網膜下のフィブリンである画像を示しています。
高橋寛二. 多発性後極部網膜色素上皮症. in眼疾患アトラス第2巻、後眼部アトラス: 総合医学社.172-3. 2019