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優性遺伝性視神経萎縮 DOA または ADOA

DOAまたはADOA:(autosomal) dominant optic atrophy視神経が両眼性に徐々に萎縮する遺伝病です。
遺伝性視神経症で有名なLeber病https://meisha.info/archives/993は、若年者に亜急性に発症するため患者さん自身が視力低下を自覚します。
これに対して、DOAは20歳までに発症するものの、緩徐進行性のため、多くは視力低下の自覚はありません。
林孝彰: 優性遺伝性視神経萎縮. 眼科 63:1287-95.2021

病態と遺伝形式

視神経は網膜神経節細胞RGCの軸索が集まった構造です。
Leber病とDOAではいずれも、ミトコンドリアの働きの低下によるエネルギー不足が原因でRGCが死滅します。
Leber病ではミトコンドリア遺伝子が変異しているので母系遺伝します。
これに対して、DOAでは第3染色体上の 3q28-q29に位置する核内遺伝子、OPA1haploinsufficiencyによって発症するので常染色体顕性(優性)遺伝です。
haploinsufficiency(ハプロ不全)は一対の相同染色体の片側の遺伝子の不活性化により産生される蛋白の量的不足による異常ですが、OPA1がコードする蛋白はミトコンドリア内の内膜の維持に必要です。

症例:51歳男性

小学生の頃は0.9-1.0程度の視力で、高校でコンタクトレンズを使用するも0.9/0.8の視力でした。40代でさらに視力が出にくいため、LASIK手術を目的に東京のクリニックを受診したところ、両眼の視神経萎縮を指摘されて大学病院での診療を勧められました。
初診時の視力は以下のごとくで、眼圧は14/15mmHg
右 0.2 (0.5p x cyl -4.0D Ax 70)
左 0.04 (0.5 x sph -3.5D : cyl -2.5D Ax 70)

視野検査ではマ盲点から固視点方向に伸びる比較暗点がみられ、中心窩閾値は31/30dBと軽度低下していました。

眼底検査で両眼の視神経乳頭の耳側の蒼白がみられましたが、緑内障性の乳頭陥凹はみられません。
OCTの水平断面では図下段の正常者の乳頭黄斑線維束に当たる高反射のNFLが欠如していました。

OCTでのNFLの菲薄化と小児期からの緩徐な進行を示す病歴からDOAを疑い、改めて尋ねたところ、父親も視力が徐々に低下したが原因は不明だったとのことです。
父親の検査はできませんでしたが、優性遺伝を示すDOAの可能性が高いと考えられました。

DOAの診断

DOAの原因遺伝子がOPA1であることは2000年に報告されました。
Alexander C et al.: OPA1, encoding a dynamin-related GTPase, is mutated in autosomal dominant optic atrophy linked to chromosome 3q28. Nat Genet 26:211-5.2000
OPA1遺伝子のmissense、nonsense、deletions、insertionなどさまざまな変異によってnull alleleを生じることでDOAを発症します。
960アミノ酸からなる蛋白をコードするOPA1遺伝子は、28のエクソンからなる40kbの長大な遺伝子のため、遺伝子診断は必ずしも容易ではありません。
そこで臨床的には両親の視力について尋ね、さらに彼らの黄斑領域でのNFLの菲薄化をOCTで調べることが診断には重要です。