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atrophic creepによる黄斑萎縮

症例:Aさん84歳男性

糖尿病網膜症のAさんは他県の眼科で汎網膜レーザー光凝固治療(PRP)を受け、7年前にPRPが完了した後、眼科は受診していませんでした。
3年前から両目の視野中心の暗点で見えにくくなり、山梨県内のいくつかの眼科診療所で相談しましたが納得できる説明は聞けませんでした。
心臓弁膜症で加療中だった大学病院循環器外科から、他科紹介依頼にて眼科を受診しました。
両眼IOL眼で矯正視力は0.2/0.3pでした。
図は超広角眼底カメラ(オプトス)で撮影した両眼底と自発蛍光像(AF)です。
レーザー光凝固の瘢痕によるRPE萎縮上段の疑似カラー撮影でもわかりますが、下段のAFでは黒く抜けてより明瞭です。

図は両眼の中心窩を通過する水平断面のOCT像です。
右眼では網膜前膜ERMと黄斑偽円孔がみられますが、それ以外に中心窩のRPEラインが両眼とも欠如していて、AFでみられた中心窩のRPE萎縮に対応しています。

推測される病態

AさんはPRPが完了した7年前には両眼ともよく見えていたそうです。
レーザーでの中心窩誤照射であれば、その当時から視力不良のはずですが、そうではなく凝固完了の3-4年後から徐々に中心視野に暗点が出現したことから、中心窩近傍まで行われていたレーザー光凝固の凝固斑がatrophic creep https://meisha.info/archives/3763によって拡大癒合して、AFで観察される黄斑萎縮になったのではないかと推測されます。

中心窩付近でのatrophic creep

抗VEGF薬が登場する2005年以前、滲出型加齢黄斑変性のCNVに対しては傍中心窩レーザー光凝固治療が行われていましたが、図はそのような70歳男性の左眼です。
図左は中心窩をさけてCNVを凝固閉塞した1か月後です。
カラー写真でわかりにくいですが、中心窩からわずかに離れて下耳側に萎縮で色があせた小さな凝固斑がみられます。
しかし5年後には凝固斑がatrophic creepによる拡大で中心窩を覆うまでになりました。

atrophic creepによるRPE萎縮の拡大は近視などで脈絡膜が菲薄化している目や、長い凝固時間で生じやすいとされています。