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常染色体潜性遺伝ベストロフィン症

顕性遺伝と潜性遺伝

2019年の日本遺伝学会の用語改訂で、優性遺伝と劣性遺伝はそれぞれ顕性遺伝、潜性遺伝に変更され、https://gsj3.org/wordpress_v2/wp-content/themes/gsj3/assets/docs/pdf/revisionterm_20170911.pdf
2021年度からは中学理科の教科書でも変更になっています。

ベスト病とベストロフィン症

ベスト病https://meisha.info/archives/1357卵黄状(様)黄斑ジストロフィ BVMD: Best vitelliform macular dystrophyとも呼ばれ、BEST1遺伝子の異常による常染色体顕性遺伝病です。
BEST1遺伝子がコードするベストロフィン蛋白は、主に網膜色素上皮RPEの基底膜外側の細胞膜に存在して、Ca2+依存的Cl-チャンネルの開閉をコントロールしています。
これまで250以上報告されているBEST1遺伝子の変異では、Cl-イオンの細胞膜内外の移動が障害されてベストロフィン症 bestrophinopathyを発症します。
Liu J et al.: Small Molecules Restore Bestrophin 1 Expression and Function of Both Dominant and Recessive Bestrophinopathies in Patient-Derived Retinal Pigment Epithelium. Invest Ophthalmol Vis Sci 61:28.2020

ARB:常染色体潜性遺伝ベストロフィン症

常染色体顕性遺伝BVMD以外に、ベストロフィン症には常染色体潜性遺伝を示すARB: Autosomal recessive bestrophinopathy(常染色体潜性遺伝ベストロフィン症)があることが最近報告されました。
ARBではBVMDと同様、リポフスチンが網膜下(視細胞外節とRPEの間)に沈着して眼底自発蛍光FAFでは過蛍光を示し、その範囲はBVMDより広範囲ですが、眼底所見やOCT所見はさまざまで、丈の低い漿液性網膜剥離や黄斑浮腫、黄斑萎縮を示す例が報告されています。
上野真治: Best 1遺伝子関連網膜症. 臨床眼科 72:133-40.2018
図は自験例の57歳女性で矯正視力は1.0/0.9です。

治療と経過

治療はなく経過観察のみですが、初診時に両眼のSRDを伴い矯正視力が0.7/0.7であった38歳女性のARB症例では、8年間の無治療経過観察でも所見はほぼ不変で視力も0.7/0.6であったと報告されています。
大音壮太郎 他: 中心性漿液性脈絡網膜症と鑑別を要する常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)ベストロフィン症例. 日本眼科学会雑誌 126:751-9.2022