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核間麻痺(MLF症候群)

片側の単独内転障害

片側あるいは両側の外転神経麻痺では外直筋が働かず麻痺性内斜視となるため同側性複視を生じます。https://meisha.info/archives/365
逆に交差性複視麻痺性外斜視の状態で生じ、動眼神経の内直筋枝の麻痺で生じます。
ただし動眼神経は上/下/内直筋、下斜筋、眼瞼挙筋、瞳孔括約筋など多くの眼筋を支配するため、眼瞼下垂や上/下転障害、瞳孔異常を伴います。https://meisha.info/archives/1093
眼瞼下垂など典型的な動眼神経麻痺の所見がなくて片眼の内転のみが障害されて交差性複視を生じる場合は、内側縦束MLF: medial longitudinal fasciculus の障害による核間麻痺INO: inter nuclear ophthalmoplegiaの可能性があります。

内側縦束MLF

内側縦束は中脳被蓋に始まり橋や延髄では中心灰白質腹側の傍正中部を走行する左右対称性の長い神経線維束で、脳幹内の多数の脳神経核の間を結ぶ神経線維を含んでいます。
楠原仙太郎. MLF症候群. 新臨床神経眼科学(増補改訂版): メディカル葵出版.118-20. 2006

側方視の神経回路とPPRF、MLF

水平注視運動の中間中枢である傍橋網様体PPRF: parapontine reticular formationから信号を受け取った外転神経核図のⅥ)のニューロンの一部は同側の外直筋に信号を送るとともに、正中部を超えた反対側のMLFを上行して中脳の動眼神経内直筋核図のⅢ)にも信号を伝えます。
その結果、たとえば右のPPRFからの信号によって右眼の外直筋と左眼の内直筋が同時に収縮することで右方視をします。(図の赤矢印の経路

核間麻痺:MLF症候群

このとき左のMLFが障害されると右眼は外転しますが、障害側である左眼の内転は制限されて核間麻痺による交差性複視を生じます。
核間麻痺の[核間]とは橋の外転神経核と中脳の動眼神経内直筋核の間という意味です。
なお両側の動眼神経内直筋核に輻湊の信号を伝える神経回路はMLFを通らないため、核間麻痺では輻湊運動は保持され、また健側(図の赤矢印経路の場合右眼外転眼には眼振がみられます。

症例:75歳男性

Sさんは2日前の午前中、畑仕事中に突然視界が左右にズレて見える水平性の複視を自覚し近医眼科を受診しました。
右眼の内転障害がみられたため、右動眼神経麻痺を疑い脳外科病院での脳MRI検査を依頼しましたが、結果は異常なしとのことで大学病院眼科を紹介されました。
両眼視力には異常なく、正面視では軽度外斜視、左方視での右眼の内転が不能ですが輻湊運動は可能です。

右の核間麻痺の疑いで、MRI検査を再度施行したところDWI画像で右橋背側に点状の高信号がみられ、FLAI, T2WIでも高信号を示して、脳幹部急性期脳梗塞による右MLF症候群と診断されました。

核間麻痺(MLF症候群)の原因としては、このケースのような脳血管障害のほか、多発性硬化症MS: multiple sclerosisが多いとされています。
鈴木利根: 水平注視麻痺とMLF症候群(核間麻痺) 典型例と鑑別診断、神経眼科 15:445-51.1998