粥状動脈硬化で内頸動脈が狭窄/閉塞すると、眼球への血流は慢性的に低下して眼虚血症候群OIS: ocular ischemic syndromeを発症します。
糖尿病や高血圧、脂質異常症などのある50-80歳代の男性に好発し、内頸動脈と外頸動脈の分岐部で内腔が狭窄または閉塞します。
OISでみられる症状や所見は以下のようにさまざまで診断に苦慮することがあります。
1. 一過性黒内障発作:amaurosis fugax または TMVL: transient monocular visual lossと呼ばれ、一眼の視覚消失が数分~数10分持続した後、自然に回復します。
2. 網膜動脈閉塞:内頸動脈狭窄部のプラークや血栓が剥離して下流に流れると、塞栓によって眼動脈閉塞、網膜中心動脈閉塞https://meisha.info/archives/3687、網膜動脈分枝閉塞症などを生じることがあります。
3. 変動する視力:網膜中心動脈圧が低下しているため、日内変動で血圧が低下すると、網膜虚血が増悪して自覚的にも見えにくくなります。
4. 眼痛:通常、網膜循環障害のみでは無痛ですが、眼動脈の血流低下による眼窩内組織の虚血によって狭心痛と同様の機序で痛みを感じます。
5. 網膜血管の変化:慢性的な虚血で網膜血管の壁が低酸素となり、蛇行を伴わない静脈拡張、多発毛細血管瘤などがみられます。
6. 血管新生:慢性虚血によって前眼部または後眼部が低酸素となり、虹彩ルベオーシス、隅角ルベオーシス、網膜新生血管などが観察されます。
7. 左右差の著しい糖尿病網膜症:通常糖尿病網膜症は左右で同様に進行しますが、例えばOISの患側のみが増殖糖尿病網膜症で健側は単純糖尿病網膜症にとどまるなど、左右の進行度が大きく異なります。
Tさんは1年前から右目の視野全体が一時的に暗くなることがたびたびあり、一過性黒内障発作を疑われて、大学病院の脳外科を紹介されました。
頚部MRI検査で右内頸動脈は閉塞、外頸動脈は高度に狭窄していました(図右)。(その後の検査で右眼動脈は右外頸動脈から灌流されていることがわかりました。)
眼科検査では矯正視力は1.0/1.2でしたが、右眼底には小斑状出血が多発し網膜静脈が軽度拡張していました(図左)。
フルオレセイン蛍光眼底造影写真FA(図中央)では右眼で網膜動脈の造影が遅れ、耳側周辺に毛細血管瘤が多発していて、OISと診断されました。
診断のためには 1. 眼底血圧計による網膜中心動脈圧測定、2. 眼窩超音波カラードップラー法や、3.レーザースペックル血流計による網膜動脈血流速度低下、4. フルオレセイン蛍光眼底造影写真での網膜循環時間の遅延などで網膜の低灌流を証明します。
頸動脈狭窄の画像診断法としては、1. 頸動脈エコー、2. 頸動脈造影、3. MRI/MRA、4. CTアンギオグラフィーなどがあります。
飯島裕幸: 眼虚血症候群 眼科 57:500-4.2015
頸動脈病変の治療法としては頸動脈ステント留置術CAS:carotid artery stenting や頸動脈内膜剥離術CEA:carotid endarterectomyなどがあります。