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ヘス赤緑試験と対座法診断

ヘス赤緑試験では健眼で赤のマス目を固視して患眼で矢印を動かすと、矢印は目標まで到達せず、眼球運動が障害された方向で圧縮された形になります。https://meisha.info/archives/4608
このとき圧縮された方向で複視が最大になり、肉眼的にも眼球運動の不全が確認できます。
このことを実例でみてみましょう。

外転神経麻痺

図左のAは左眼での矢印移動が制限されて、紫矢印方向に四角が圧縮されています。
これはヘスチャートで[外直]と小さく記載されている方向へ左眼が動きにくいためで、左の外直筋あるいはその支配神経である外転神経麻痺であることを示唆します。(ただしこのパターンは外直筋の麻痺だけでなく、甲状腺眼症などで、拮抗筋である内直筋の拘縮による伸展制限でも生じます。)
実際に対座法にて、患者さんの眼前においた猫ペンの視目標を患者さんから見て左方に動かして尋ねると左方視で[左眼像が左、右眼像が右]同側性複視が確認できます(図中央のB)
さらに左方視している患者さんの両眼球を視診にて観察すると、図右Cのように左眼の外転が不十分なこともわかります。

まず対座法、その結果をヘス赤緑試験で確認記録

実際の臨床では、複視を訴える患者さんをまず対座法で診察して、1. Bのように左方視で同側性複視が増強、2. Cの視診での眼球運動制限を観察した上で、3. Aのヘスチャートでそれを確認記録する、という診断プロセスが理想です。
B、Cを省略して、ヘス赤緑試験のみを視能訓練士ORTにオーダーして、Aの結果だけで診断することのないよう心掛けるべきです。

対座法とヘスの食い違い

実際にはAの結果とB,Cの結果が矛盾することも少なくありません。
そのような場合には、B,Cを再検してみることで対座法の診断能力が向上します。
またそれとは逆にAのヘスチャートが誤っていることもあり、再度ヘス赤緑試験をやり直すことで間違いが修正できることもあります。

動眼神経麻痺

図左は右眼の動眼神経麻痺の患者さんのヘスチャートです。
実際の視診では図右のように右眼の内転、上転、下転が制限されていました。
比較的軽度の下転障害に対して、上転障害は高度ですが、そのことはヘスチャート左側の左眼(健眼)固視の結果で、上方視の結果が記録できないほどの異常であることからも確認できます。