高齢者にみられる黄斑円孔https://meisha.info/archives/236は後部硝子体剥離PVDに伴って生じる特発性黄斑円孔です。
後部硝子体膜が中心窩を残してその周囲で剥離すると、中心窩の神経網膜は前方に牽引されて亀裂を生じ、その後内境界膜に付着する後部硝子体が収縮することで亀裂が接線方向に牽引されて円孔が拡大します。
寺﨑寛人, 山下敏史: 特発性黄斑円孔、臨床眼科 74:1486-90.2020
一方外傷性黄斑円孔は野球のボールや拳などでの鈍的外傷によって、後部硝子体が未剥離の若年者に多く生じます。
その機序としては前後方向に圧縮される眼球変形によって、黄斑部網膜に接着している硝子体皮質が黄斑部とともに遠心性に牽引される機序が示唆されています。
井上真: 外傷性黄斑円孔、臨床眼科 74:1505-9.2020
2日前にサッカーボールが左目に当たり、ゆがみの訴えで大学病院を紹介され、初診時の矯正視力は1.5/0.15でした。
左眼の中心窩に直径120µm程度の小さい黄斑円孔(図左端)がみられ、その耳側上方には網膜振盪による網膜の白濁(星印)がみられました。
自然閉鎖の可能性を考えて経過観察しましたが、円孔サイズが拡大し円孔縁が挙上してきました(黄矢印)。
自然閉鎖の可能性は低いと判断して、2か月後に全身麻酔下で、水晶体温存、硝子体切除を行い、内境界膜を剥離してSF6ガス置換しました。
術後、一時的にガス白内障が増強しましたが、1か月後にはわずかな水晶体混濁のみで黄斑円孔の閉鎖が確認されました。
その後中心窩の外顆粒層の厚みも増して2年半後の矯正視力は1.5/0.9でした。
ただし星印の網膜部位はRPEを含めて萎縮していて10-2視野でも暗点になって残っています。
1. 自然閉鎖をまず待つ:外傷性では自然閉鎖する可能性が高いので、2-3か月経過をみても閉鎖しない場合に手術にふみきります。
愛知高明 他: 琉球大学病院における小児外傷性黄斑円孔の臨床転帰. あたらしい眼科 40:1244-8.2023
2. 硝子体単独手術:若年者では水晶体は温存します。術直後はガス白内障で水晶体は一時的に混濁しますが、通常軽快して白内障手術が必要になることはまれです。
3. 内境界膜剥離:手術では後部硝子体が剥離していないので、成人同様内境界膜まで剥離したほうが手術成績がよいとされています。
3か月経過観察された後の21歳の外傷性黄斑円孔症例で、d. の内境界膜剥離併用硝子体手術が正解です。