網膜静脈閉塞症(BRVOとCRVO)に伴う黄斑浮腫によって低下した視力は、抗VEGF薬の硝子体注射で劇的に改善します。https://meisha.info/archives/561
多くの場合、患者さんは[注射してもらった3-4日後にはとてもよく見えるようになりました。]と喜んでくれます。
しかし一部の患者さんは、黄斑浮腫が吸収して中心窩陥凹を示す正常のOCT像が回復したにもかかわらず視力は不良のままで、[注射の後も見え方は良くなりません]と訴えます。
硝子体注射治療によるBRVO眼の大規模臨床試験(BRAVOスタディ)では、下記論文の表から作成した図のように、1年後に86%の目で黄斑浮腫が消失した(中心窩網膜厚≦250µm)にもかかわらず、0.5以上の矯正視力となった目は66%にとどまっています。
Brown DM et al: Sustained benefits from ranibizumab for macular edema following branch retinal vein occlusion: 12-month outcomes of a phase III study. Ophthalmology 118:1594-602.2011
同様にCRVO黄斑浮腫に対するCRUISEスタディでは、黄斑浮腫の消失78%に対して0.5以上の矯正視力は43%でした。
Campochiaro PA et al: Sustained benefits from ranibizumab for macular edema following central retinal vein occlusion: twelve-month outcomes of a phase III study. Ophthalmology 118:2041-9.2011
これは浮腫が吸収しても視力が回復しない目が一定数存在することを意味しています。
その原因として、中心窩の視細胞障害とその信号を受け取る乳頭黄斑線維束に存在する網膜内層神経の虚血壊死が考えられます。
Iijima H: Mechanisms of vision loss in eyes with macular edema associated with retinal vein occlusion. Jpn J Ophthalmol, 2018.
抗VEGF薬で黄斑浮腫が吸収したのに視力が回復しない目の多くでは、OCT像で視細胞の内節を表すEZ (ellipsoid zone)のラインが中心窩の部分で途切れています。
これは黄斑浮腫に伴って生じた網膜下出血や硬性白斑などで視細胞が障害された結果と考えられます。
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の疑問(疑問3) 黄斑浮腫ではどうして視細胞が障害されるのか? 眼科 58:1591-5.2016
黄斑浮腫の吸収後に視力が回復しない目でフルオレセイン蛍光眼底造影検査を行うと、毛細血管が脱落した無灌流野(NPA)が一部の目では乳頭黄斑線維束に及んでいます。
そのような目では中心窩の視細胞からの信号を伝える網膜神経節細胞の軸索が虚血により障害されていることが視力不良の原因と考えられます(図左)。
ただしBRVOでは図右のように乳頭黄斑線維束にNPAが及んでいない症例がほとんどのようです。
飯島裕幸: 網膜静脈閉塞症の疑問(疑問2) RVO眼の黄斑浮腫以外の視力低下要因. 眼科 58: 1073-1076, 2016.