霰粒腫はマイボーム腺由来の油脂による慢性炎症(脂肪肉芽腫)で、非感染性のまぶたのできものです。https://meisha.info/archives/627
細菌感染による急性化膿性炎症の麦粒腫とは異なり、疼痛や圧痛はないか軽く、抗菌薬には反応しません。
霰粒腫か麦粒腫か、まぎらわしいケースの鑑別手段として、痛みの有無と抗菌薬の効果をみるという考えを提案する研究者もいます。
小幡博人. 霰粒腫•麦粒腫. In: 野田美香, ed. 眼付属器疾患とその病理(専門医のための眼科診療クォリファイ10). 東京: 中山書店.46-51. 2012
しかし実際の臨床では、痛みはあまり訴えないものの、まぶたの皮膚が赤く腫れて急性炎症の所見を示す場合があり、急性霰粒腫と呼ばれることがあります。
急性霰粒腫の病態はどうなっているのでしょうか?
霰粒腫は限局型とびまん型に分かれます。https://meisha.info/archives/627
このうちびまん型の霰粒腫では、皮下に漏れ出た油脂を異物として排除しようとする炎症が起きます。
急性炎症反応としての皮膚の発赤が目立つので、これを急性霰粒腫と呼ぶとの記載があります。
小幡博人 Meibom腺梗塞 vs 霰粒腫. In: 石橋達郎, ed. いますぐ役立つ眼病理(眼科プラクティス): 文光堂.41-43. 2006
一方、[霰粒腫に感染を伴ったものを急性霰粒腫と呼ぶ]と記載したHPもみられます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9C%B0%E7%B2%92%E8%85%AB
https://doctorsfile.jp/medication/298/
日本眼科学会HPの一般の方向けの病気の解説では、急性霰粒腫について、炎症を伴って麦粒腫に似た症状が出たものと記載されています。
しかしその一方で、急性霰粒腫の治療として抗生物質をまず使用するとも記載されているので、細菌感染を想定しているようにも読み取れます。
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=6
そこで外国ではどのように扱われているか調べてみました。
PubMedにてacute chalazionあるいはacute chalaziaで検索したところ、20件のヒットがありましたが、いずれもacute chalazionという病名の記載ではありませんでした。
またEyeWiki という米国眼科学会が提供している眼科検索サイトで”acute chalazion”で検索してもそれらしい記事は見当たりません。
https://eyewiki.org/Main_Page
以上から日本で診断される急性霰粒腫には以下の3つが含まれると考えるのが妥当のようです。
ただし2の場合は細菌感染のルートが不明です。
自壊した霰粒腫の皮膚面からの感染だとすれば、それは原因ではなく結果に過ぎないのではないでしょうか?