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眼瞼炎に続発する角膜病変

眼瞼炎が元で角膜に病気がみられることがあり、主なものとしてカタル性角膜潰瘍マイボーム腺炎角膜上皮症があります。
これらの病気は眼瞼縁に開口する脂腺や汗腺で増殖した細菌が原因です。
しかしその細菌は、角膜上で増殖している訳ではありません。
そのため細菌性角膜潰瘍に対するような抗菌薬の頻回点眼治療だけではうまく治癒に持ち込めません。
治療には眼瞼の構造と病態の理解が重要です。

眼瞼炎に関係する脂腺と汗腺

まつ毛の生え際から眼瞼結膜前縁(粘膜皮膚移行部:MCJ: muco-cutaneous junction)までの眼瞼縁の前方には睫毛があり、睫毛を入れる毛包にはツァイス腺(脂腺)とモル腺(アポクリン汗腺)が開口しています。
一方、眼瞼縁の後方には独立脂腺であるマイボーム腺が開口します。

なお眼科の教科書の中には、モル腺が睫毛の毛包ではなく眼瞼の皮膚に直接開口するように記載されているものもみられますが、これは誤りです。
Grayの解剖学やJakobiecの教科書、Ocular anatomy, embryology, and teratology(1982)、にはモル腺がツァイス腺とともに毛包に開口する絵が掲載されています。
後者の本文には
The glands of Moll are apocrine glands that also empty their secretion into the follicles of the cilia
と記載されています。

眼瞼の分泌腺と細菌

睫毛腺であるツァイス腺とモル腺に関連するのは黄色ブドウ球菌で、まぶたの化膿性炎症である外麦粒腫
https://meisha.info/archives/596
を発症します。
一方、マイボーム腺は涙の油層の成分を分泌しますが、主に関連するのはアクネ菌と表皮ブドウ球菌です。
マイボーム腺の分泌物からは、正常眼であってもこれらの菌が検出されます。
Zhang SD et al.: Bacteriological profile of ocular surface flora in meibomian gland dysfunction. Ocul Surf 15:242-7.2017

眼瞼(縁)炎の分類と関連する角膜病変

眼瞼(縁)炎は眼瞼縁前方の睫毛部に関連する前部眼瞼(縁)炎と後方のマイボーム腺に関連する後部眼瞼(縁)炎に分類されます。
これらの眼瞼炎のうちブドウ球菌性(前部)眼瞼炎マイボーム腺炎は細菌感染が原因です。

その角膜病変として、前者ではカタル性角膜潰瘍、後者ではマイボーム腺炎角膜上皮症がみられます。
横井則彦:マイボーム腺炎関連角膜上皮障害. 臨床眼科 70: No11:119-24.2016
横井則彦:カタル性角膜潰瘍. In眼科診療クォリファイ25 角膜混濁のすべて: 中山書店.124-30. 2014

感染アレルギーと菌体外毒素

しかしいずれの病変でも原因となる細菌は角膜表面で増殖しているわけではありません。
角膜の病変は、眼瞼の睫毛腺やマイボーム腺内で増殖した細菌による
1. 感染アレルギー
あるいは
2. 菌体外毒素や細菌のもつリパーゼによって生じた遊離脂肪酸による角膜上皮障害
と考えられています。