白内障は角膜の後方にある本来透明な水晶体が白く濁り、かすんで見え辛くなる目の病気です。
進行した白内障では散瞳薬で瞳を広げると、図の右目のように肉眼でも白くなっていることがわかります。
白内障がある程度進行して見え辛くなれば、手術(水晶体再建術/眼内レンズ挿入術:PEA/IOL)で治療します。
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しかし反対側の目がまだよく見えていれば生活上の支障はあまりなく、多くの高齢者は目の手術を怖がって、手術の代わりに白内障の目薬を希望します。
手術をせずに目薬を使いながら眼科に通っている高齢の患者さんは少なくありません。
白内障の目薬にはどのような作用があるのでしょうか?
水晶体の組成の2/3は水分で、残り1/3の蛋白の多くはクリスタリンと呼ばれる水晶体特有の蛋白です。
水溶性蛋白なので光を通し、砂糖水が透明なのと同様に水晶体は透明です。
しかし紫外線などのストレスによって発生する活性酸素によってクリスタリンが酸化、変性すると互いにくっつく凝集で不溶性となり、光を遮るようになります。
ポタージュスープが濁るように、水晶体が濁る白内障になります。
水晶体蛋白の酸化を防止するために、水晶体には多くの還元型グルタチオンが含まれています。
白内障用点眼薬にはクリスタリンの酸化/凝集を阻止するために表の1. から4. のいずれかの作用があります。
3. はクリスタリン蛋白に含まれるアミノ酸のSH基同士が縮合してS-S結合による凝集を阻止する働きです。
蛋白の凝集には紫外線によって発生したキノイド物質が蛋白に結合して進行する機序もあります。
4. は蛋白に結合するキノイドを競合阻害する成分(ピレノキシン)による作用です。
青瀬雅資, 松島博之: 日本国内で使える白内障予防薬. あたらしい眼科 31:1455-9.2014
上記にように白内障目薬は水晶体蛋白のクリスタリンの酸化と凝集を抑制します。
しかしこれは水晶体の濁りの進行を遅らせるだけで、一旦濁った水晶体を透明にすることはできません。
白内障による見えにくさで困っている場合の解決方法は手術だけです。